データサイエンスでテクノロジーの効果を検証
また、米国農業のトレンドとして、ウェンテ氏は技術を導入するだけではなく、技術の効率的な利用や効果の検証をするため、データ管理アプリケーションも積極的に利用している。
もともと米国ではトラクターなどの農業機械メーカーが、自社の機械と連動した農薬散布量や収穫量、土壌調査ソフトウェアなどを提供しており、ウェンテ氏はこれらを1990年代から利用し、畑のデータ管理に利用していたそうだが、2014年から、気象データや衛星写真、農業機械を通して得られるデータを分析してくれるモンサント社の「Climate Fieldview」というアプリケーションを導入しているという。
例えば、雨が降ったとすると、気象データの降雨量をもとに畑の水分量はもちろん、雨によって畑に散布した肥料がどの程度流出してしまったのか、という数値まで「Climate Fieldview」が推算してくれる。
あくまでも予測値ではあるが、生産者はこの数値をもとに、予定している収量を達成するために、どの程度肥料を追加すればよいか判断する材料にすることができる。
「各メーカーの農業機械に小型のドライブを取り付けるだけで、さまざまなデータが自動的に収集され、オフィスのパソコンはもちろん、iPadやiPhone上からでも確認することができます。データ管理アプリは多数存在しますが、これほどのものはないですね」(ウェンテ氏)
こうしたデータや分析結果をあまり信用していなかったというウェンテ氏だが、たまたまよくチェックしていた畑の計測結果と、「Climate Fieldview」の予測値に大きな差はなく、今では広大な農地を効率的に管理するのに不可欠なものだと考えている。
「予測値が絶対だとは思いませんが、判断材料のひとつにはなります。例えば、窒素量のデータが信じられなければ、自分で畑に向かい土壌サンプリングをしよう、という判断ができるでしょう」(ウェンテ氏)
先端技術の導入にもコストは発生するが、結果的に収穫量や効率的な畑の管理によってコストが抑えられるなら、今後も取り入れていきたいとウェンテ氏は語る。
無駄な窒素肥料の量を削減するメリットは、コストだけではない。意外だが、農林業から発生する温室効果ガスは約24%を占めると言われる。大気中の窒素肥料は、温室効果ガスの発生にもつながるのだ。
バイオテクノロジーや生物製剤によって生産性を高めると、温室効果ガスの抑制につながる。さらに、農地の肥沃度や気象データなどを継続的に収集し、効率を高めていくことで、温室効果ガスの発生要因を減らしていく。
モンサント社をはじめ、農業にかかわる企業やNGOなどが取り組んでいる、先端技術を利用したこうしたカーボンニュートラル(温室効果ガスを発生させない)な農作物生産システムも、米国のトレンドとなっているようだ。
「収穫量が上がり、収益が得られなければ農業を続けることができません。環境にも配慮し、安定した農業を次の世代に引き継ぐためにも、技術は必要なものだと考えます」(ウェンテ氏)