『100年前の女の子』が文庫本に 明治・大正の民俗がよみがえる

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「常民の歳時記」

   母の名は寺崎テイという。『100年前の女の子』は、テイさんが生まれてまもなく実の母から引き離され、あちこちに預けられ里子に出され、ついには5歳の時に養女になり、16歳で東京に出てくるまでのことを丹念にたどっている。

   四季折々の村の暮らし。お正月やお盆、節分、十五夜。厳しい野良仕事の手伝い。米寿を過ぎるころからポツリポツリと昔のことを語りだしたというテイさんの記憶は、驚くほど鮮明で、村人たちが交わしていた話もよく覚えていた。それは形を変えた実録「遠野物語」であり、日本のどこの田舎にもあった「常民の歳時記」だった。

   だからこそ単行本の刊行時に丸谷才一氏は毎日新聞で、「心にしみる伝記が一つ出来た」と紹介し、三十代、四十代の読者からは「私たちも、おばあちゃんの話をもっと聞いておけばよかった」という読後の声が寄せられた。

   好評だったのは、編集者・船曳さんの編集者のウデによるところも大きい。文庫本の解説で中島さんは、「口承と取材による裏付けが、全く切れ目を見せず、一幅のなめらかな織物のように、少女の物語として織り上げられているところが、この作品の稀有な印象を形作っている」と、編集の巧みさを強調している。

   テイさんは単行本刊行後の2010年12月9日、午後のまどろみのうちに、だれにも気づかれずに逝った。101歳だった。「妣(はは)なる国」で、終生相まみえることのなかった実の母と会えただろうか・・・。船曳さんは文庫本のあとがきで静かに思いをめぐらせている。

   文庫本は2016年7月、文春文庫刊。本体780円。

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