子育て支援も、働き方も抜本的に変えよう
フランスでは、シラク元大統領が打ち出した「シラク3原則」を実行したことにより、1.66(1994年)だった出生率が約15年で2.0を超えるまでに回復したという。
「シラク3原則」とは、次のような内容だ。
(1)女性がいつどこで赤ちゃんを産んでも経済的に困らないような措置(給付金の支給)をとる (2)無料の保育所を完備し、待機児童を無くす (3)育児休暇から職場復帰するときは、ずっと勤務していたものとみなし、企業は受け入れる
出口氏は、待機児童の問題が長年にわたって議論されながらも解決しない日本の現状について、フランス人からこう言われたという。
「義務教育ならば、小学校の先生が足りないから、教室が足りないからという理由で、小学1年生を待機させるようなことはない。義務教育ならできるのに、なぜ保育園はできないのか? やる気がないだけでしょう。義務教育と同じレベルで義務保育にすれば、あっという間に解決するはずではないか」
高度成長期の働き方を未だ引き摺っている現状についても、根本から見直す必要があるとする。
日本の労働時間は、年間1700時間と一見減少しているように見えるが、これはパート労働が増えているからであって、正規労働者の労働時間はこの20年間、2000時間と変わっていない。結果として、女性にしわ寄せがいってしまい、「女性活躍」などと言っても、夢のまた夢だという。
2030年には、現在と比べて800万人も労働力が減ってしまう状況を考えれば、日本は以下の3つの働き方改革を断行し、「働き方先進国」を目指す必要があると説く。
(1)残業禁止(残業が好きなおじさんは成長の敵!)
(2)定年制廃止(年功序列賃金は無くなるし、健康寿命も延びる!)
(3)非正規労働者への社会保険の適用拡大(下流老人問題の解決につながるし、年金財政も好転する!)
こうした3つの取組みが徹底されれば、自ずと、性別、年齢、正規・非正規の違いによる待遇格差が生じない「同一労働同一賃金」が達成されるというのだ。
ドイツでは、シュレーダー元首相が社会保険料負担の増加を嫌う産業界の強い反対を押し切って、社会保険の適用拡大を断行した。その際、非正規労働者の社会保険料については、給与が少ないからとして、むしろ企業負担分を増やすといった措置すら講じたのだ。
「会社がつぶれてしまう」との中小・零細企業側からの反発に対し、シュレーダー元首相は次のように語ったという。
「老後のための年金保険料や、病気になったときの健康保険料を負担できないような企業は、そもそも人を雇う資格がないのではないか」
結果として、シュレーダーは、その後の選挙に負けて政権を失ったが、こうしたラディカルな構造改革によって、ドイツ経済は強くなり、現在のメルケル首相は10年以上にわたって安定政権を維持している。
日本においても、これまで3度にわたり、社会保険の適用拡大がチャレンジされたが、事業主サイドからの強い反発があって道半ばの状況にある。しかし、人手不足が深刻化する中で、働き手の確保が最優先課題となっている現状を考えると、いつまでも、この社会保険の適用拡大問題に手をこまねいているわけにもいかない。
この状況をどう前に動かすか、具体的な知恵を絞り出さなくてはならないと思う。