◆「世界一子どもを育てやすい国にしよう」(出口治明、駒崎弘樹著、ウェッジ)
昨年(平成27年=2015)の合計特殊出生率は1.46。平成17年(2005)の底(1.26)から改善したとはいえ、人口が均衡する水準(2.07)には程遠い。出生数でみると101万人と、ベビーブーム時代(昭和24年=1949)の270万人(現在67歳)の4割に満たない水準である。1989年の1.57ショック以来、いつか回復するだろうと淡い期待を抱かれながら30年近くが経過したが、未だ、本格的な反転と呼べる状況にはない。
本書は、「保険料を半分にして、そのお金を子育てに回し、安心して赤ちゃんを産み育てる社会をつくる」という問題意識から、生命保険をインターネットで販売するライフネット生命を創設した出口治明氏(68歳)。そして、日本で初めて「共済型・訪問型」の病児保育を開始し、その後、障害児保育園「ヘレン」などを展開している保育分野の若手社会起業家、駒崎弘樹氏(36歳)の共著である。
少子化問題や子育て対策に強い関心を持ち、発信を続けている二人の企業家が、日本社会を根底から変えることなくして少子化の流れは変わらないとの認識に立って、今、何をすべきかを熱く語り合ったものだ。
30歳以上の年齢差がありながらも、世代を超えて、少子化への危機感を共有する両氏の対話は、共通点が多く、歴史に通じた出口氏と、子育て現場に精通した駒崎氏それぞれから示される事実、数値に説得力があり、とても具体的でわかりやすい内容となっている。
社会が根底から変わらない限り流れを反転させられない
二人は、繰り返し、戦後の高度成長という特殊な成功体験の下で発想している限り、少子化の流れを反転させることはできないと指摘する。子育て支援も、働き方も、そして政治(民主主義)の在り様も、もう一度グランドデザインから考え直していく必要があると説く。
出口氏曰く、
「政府の問題意識としては、いまだに『将来の労働力が足りない。だから女性に産んでもらわなければ』という域を、大きくは出ていないように見受けられます。いったい、その程度の問題意識で、わが国の少子化問題が解決できるのでしょうか」
「少子化問題(への対応)は、単に労働力が増えるということではありません。僕たちがどのような社会をつくりたいかという、将来のビジョンに大きく関わってくる問題です。本心から、将来も人口1億人を目指したいのであれば、財源(≒増税)も必要ですし、男女を問わず、働き方を根底から見直さなければなりません」
「人間は動物です。動物の根源的な役割は、次の世代のために生きることです。だから、赤ちゃんを産みたいときに産めることが、何よりも素晴らしい社会だと思うのです」
「子どもを産みやすい社会をつくるためなら、消費税を上げるなどして財源を捻出するのは、大賛成です。『子どもを増やしたいなら、これだけ税金を上げます』と、根拠を示してきちんと話せば、賛成を得られると思うんですよ」
駒崎氏は、危機感を持つ者が声を上げようと説く。
「子育てや少子化の問題がこんなにひどくなったのは、われわれが問題を温存させ続けてきたからにほかなりません」
「やる気のなさは、公的支出にも表れています。例えばGDPに占める家族関係支出は日本では1%あまりですが、フランスは3%弱。イギリスになると4%弱に達しています。国が投入している資源が、まったく違うんです」
「2050年に、日本の高齢者率は4割になり、労働者は3分の2に激減します。社会の持続可能性そのものが失われようとしている。僕はそのころ70歳ですが、子どもや孫の世代に『あのとき、なぜ問題意識を持ってくれなかったの?』『なぜ、手を打ってくれなかったの?』と言われたくはありません」
「ひと世代で世の中は変わります。われわれは世代を背負っていると思ったほうがいい。決して女性だけの問題ではなく、男性も語らなければなりません。子どもたちが見ています」