素晴らしい景観ユングフラウのふもとで作曲
そんな彼は、「心の故郷」であり両親の故郷でもあるスイスのユングフラウのふもと、ヴェンゲンという町に1920年、28歳の時に滞在しました。その地で、交響詩「夏の牧歌」は完成されたのです。オネゲルに直接インスピレーションを与えたのはフランスの早熟の天才詩人、同じファーストネームを持つアルチュール・ランボーの散文詩「イリュミナシオン」の中の一節、「私は夏の曙を抱いた」という部分だとされています。しかし、現実の彼の前にはスイスアルプスの素晴らしい景観が広がっていたわけであり、作曲に大きな影響を与えていたと考えるのが自然ではないでしょうか。
7分ほどの交響詩は3部に分かれていて、最初の部分は朝のアルプスの穏やかな情景を彷彿とさせ、中間部は素朴な舞曲風の旋律を持ち、最後はまた穏やかなアルプスの風が吹いてきて穏やかなうちに曲は終わります。暑苦しい夏にこそ聴きたい、爽やかな一曲です。
「フランス6人組」としての活動に多少の不安を感じていた若きオネゲルでしたが、この曲がパリで初演されると評判となり、賞も受賞し、一流音楽家としての評価が固まりました。やはり、オネゲルには「スイス」が似合っていたのです。
本田聖嗣