スマホ歩きはせずに怖い顔をしてずかずかと
数々の革新的な曲を作りだして、クラシック音楽の転換点となったベートーヴェンですが、有名な第5交響曲・・・いわゆる「運命交響曲」の後に作ったのが、第6交響曲「田園」です。それまでは通常4楽章で1つの交響曲となるところ、この曲は5楽章からなる構成で、それだけでも斬新です。彼は自作に表題をつけることを好みませんでしたが、この曲は、「シンフォニア・パストレッラ」、つまり田園交響曲と全体的なタイトルがつけられ、各楽章にも「小川の辺の情景」とか「雷雨、嵐」などの表題が書き込まれています。都会ウィーンからひたすら歩き続けて田園や森林を歩き回り、休暇時には、田舎での生活を好んだベートーヴェンは、いつしか、その情景を自分なりに音楽にしようと企んだのです。
しかし、ここでもベートーヴェンは、安易に妥協はしませんでした。というのも、当時、ウィーンなどでは、風景を単純に音で描写する表題音楽が流行していたのです。ベートーヴェンはそういった「箱庭的音楽」を作るつもりは毛頭なく、この曲は、あくまで「絵画的描写ではなく、そのような景色の中の人間が感じる感情の表出としての音楽」だと断り書きをしています。「田園交響曲」は、散歩をしながら楽しく作った曲ではなく、常に音楽の新たな表現に挑戦するベートーヴェンが、「ファイティング・ポーズ」で歩きながら構想を練った曲だといえましょう。
創造性の塊のような人間だったベートーヴェンは、現代に暮らしていたら、スマホのゲーム画面などを見ながらぼーっと歩くことなどはせず、怖い顔をして、ひたすら作曲をしながらずかずかと歩いているかもしれませんね。
本田聖嗣