言葉を定義づけせず議論が迷走するSNS時代

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言葉の意味を掘り下げる暇人

   歴史学者の與那覇潤氏が本書の「解説」を書いている。数年前、「中国化する日本」なる書で論壇を騒がせた若手論客である。

   碩学の書を解説するためか気負いを感じるうえ、平仮名の多用に違和感を覚えるものの、評者も同感と思う箇所がある。引用してみよう。

   「かつて同じ列島に生きた人々が史料のうえに残した、しかしこんにちの私たちの感覚とはまるで異なってしまっている他者のことばと触れあい、そしてそのことを通じて私たち自身が無意識にとらわれてきたことばの限界を脱ぎ捨てることで、みえてくる世界を多様にし豊饒化してゆくことこそが、網野善彦の歴史学だったのではないか」。

   言葉の意味を明確にする。その大切さは言うまでもないと評者などは思ってきた。

   しかし、言葉を定義づけせぬが故に議論が迷走する、不毛なやり取りをSNS上で頻繁に目にするようになった。

   重要なキーワードに敢えて定義を与えず、それを詰めもしないメディアに乗じて言葉の曖昧さを政治的に利用するに至っては、つくづく罪作りだ。不都合な真実はその裏に隠蔽されてしまう。

   それが穿ちすぎだというのであれば、言葉の意味をいちいち確認するには、昨今の人々は忙しすぎる、ということかも知れない。そういった非常にお忙しい方々からすれば、歴史上の日本語の意味を捉え直す本書に興味を持つ評者のような者は、暇人の一言で片付けられてしまうに違いない。むろん評者は敢えて反論せず、「暇人」という語の来歴なぞ調べるが上策と心得ている。

    拙文の言葉の用い方に誤りも多々あろうことから、この際、読者諸賢にお詫びしつつ、ご叱正を賜れれば幸いである。

酔漢(経済官庁・Ⅰ種)

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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