言葉を定義づけせず議論が迷走するSNS時代

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中世における「自由」の語はどのような意味をもつか

   網野歴史学は奥深いが、本書の特色は、網野氏他の研究成果に基づき、往時の単語の意味を丁寧に論じていることだろう。

   例えば「百姓」という言葉である。網野氏は、百姓とは数多の仕事を指す語とし、中世には商工業者や漁業者など幅広い職業の担い手を指す語であったと、史実に拠って事細かに説明する。その意味が、江戸時代に入ると農本主義によって「百姓=農民」の思い込みが強まり、明治期以降には農民を指す用語として定着したとする。

   氏の問題意識は、封建制度や富国強兵政策など為政者の方針によって、日常用いられる言葉の意味が変貌する事情を冷静に認識しつつ、農民以外の様々な人々の活動を把握することで、列島の歴史をより客観視したい、というものであろう。

   「日本」「百姓」という単語以外にも、「切手」「市場」「談合」「落書」など、さまざまな単語の中世における意味合いが紹介され、それらが、我々が普段はあまり意識しない微妙な語感につながっていることを教えてくれる。

   「自由」の語は典型だ。福澤諭吉が英単語の訳語に充てる以前には「中国大陸から入ってきた言葉ですが、元来は専恣横暴な振る舞いをするという語義で、専らマイナスの価値を示す言葉だった」という。なるほど戦前の全体主義者が、放縦に流れる自由を中心とした体系ではなく義務を中心とした体系とするべし、と主張した遠因はこれかと得心がいく。中国共産党が自由主義を毛嫌いする所以でもあろうか。

   歴史に学ぶというと、戦国武将の用兵術などからビジネスの組織論を語るような短絡的な本がまま見受けられるが、用語の意味深さを再認識させてくれるこうした研究成果に、評者はより魅力を感じる。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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