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   ■「歴史を考えるヒント」(網野善彦著)

   講演内容が書籍化されることはままある。確かに、良い講演では、我々がこの場で聞く話だけではもったいない、と強く感じることがある。本書は、そうした講演が補足されて雑誌に連載され、さらに一冊にまとめられて世に出たものという。

    農業社会一色と誤解されてきた中世日本の豊かな姿を一般に広く知らしめた網野歴史学の最もコンパクトなものが本書と思うが、ご関心の向きは、論争を巻き起こした氏の出世作とも言うべき「無縁・公界・楽」(平凡社)や、より網羅的な「日本の歴史をよみなおす」(筑摩書房)をお勧めしたい。

  • 「歴史を考えるヒント」(網野善彦著)
    「歴史を考えるヒント」(網野善彦著)
  • 「歴史を考えるヒント」(網野善彦著)

網野史観批判への反論

   2004年に没した網野善彦氏は、左翼系歴史学者と言われ、時に歴史学者以外の運動家から「網野史観」なるものが強く批判された。網野氏は思想的には左派だったようであるし、その書籍を読むと「これは批判や誤解を受けるだろう」と思わせる箇所もある。

   だが研究者個人の思想的傾向を理由に研究内容を批判するなら学問は成り立たない。氏の学究としての業績まで批判される謂れはない。

   網野氏は、「日本」という呼称の由来を徹底的に調べている。そして、この国号は唐帝国を強く意識したものとして、689年の浄御原令により定まった(異説もあるらしいが)、と指摘した上でこう言う。

   「こう申し上げると、私も『自虐史観』と言われてしまうのかもしれません。それならそれで結構で、『日本』に関して何も知らないで『愛国心』を強調するよりも、『日本』についてもっともっとよく知ることの方が重要ではないかと、私は強調したい」。

   中世史の専門家として、国粋主義的な論者の誤謬を正した網野氏が、一部勢力に敵愾心を抱かれつつそれを一蹴する姿勢を保ったことは、学究のあり方として尊敬に値すると評者は思う。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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