「Aクラス」にも弱点アリ
著者の池田氏は東大で都市工学を学んだ専門家。現在は「東京23区研究所」の所長。都内だけでなく全国各地のまちづくりをサポートしている。本書では多数のデータを駆使し、各区の直面する課題を浮き彫りにしている。
たとえば便利で裕福とされる都心区だが、リスクもある。23区平均では4%しかいない11階以上の高層階に住む世帯が、中央区で24%、港区で20%もいるのだ。大震災の場合、中央区では41%が停電し、69%が断水すると想定されている。かなりのエレベーターも止まるだろう。復旧には時間がかかる。タワーマンションを売る方も買う方も、このリスクをどれだけ承知しているのかと疑問を呈する。
圧巻は第4章「23区の通信簿」だ。「Aクラス」は新宿区、渋谷区、品川区、港区、世田谷区、目黒区。「Dクラス」は墨田、文京、足立、江東、荒川、北区と査定するが、「D」に希望がないわけではない。たとえば足立区では、関係者の努力もあって犯罪件数が激減している。こんごの浮上要素がある。一方、「A」の港区は、実は06年からずっと離婚率トップという不安要素があることも記す。
都民の関心は20年の東京五輪や、このところスポットが当たる「子育て支援」などに集まりがちだ。しかし、五輪は会場が江東区中心の局所的イベントで広がりを欠く。半世紀前の東京五輪が、首都高、モノレール、新幹線という交通アクセスや、選手村の跡地に代々木公園という置き土産を残したことに比べると、「宴のあと」のハードの遺産は貧弱だ。
また、ひとくちに子育てといっても、幼児が増加する港区や品川区と、小中学生が激減する北区では大きく異なる。新知事はこうしたきめ細かい地域事情も頭に入れながら施策を打ち出す必要がありそうだ。