待望の「会議の政治学 III 中医協の実像」(森田朗著 滋学社出版)がこの5月に出版された。「会議の政治学」、「会議の政治学 II」は、2015年1月22日付「霞ヶ関官僚が読む本」で「行政機関の諮問会議『審議会』の実態」として紹介した。「会議の政治学 II」のあとがきで、森田氏は、数ある審議会の「なかでも中医協は、特異な審議会であり、他の審議会ではみられないさまざまな作法や人間模様がみられる。...もし将来、『会議の政治学 III』を書く機会があれば、そこで論じることにしようと思っている。」と書いていた。
本書では、厚生労働省の審議会である、中央社会保険医療審議会(中医協)の実態を取り上げている。帯には「あなたの医療の値段を決める人たち 中医協と40兆円」、「医療側、支払側が繰り広げる丁々発止 『エビデンスに基づく合理的決定』の実像に迫る」、「政府の数多くの審議会に関ってきた著者が中医協会長を務めた4年間 そこで目撃した数多くの『切った張った』の修羅場 そこからみえてきたものとは...」とある。
「議論のワザ」の具体例を解説
第1章では、中医協の「舞台設定」、「わが国の医療制度と中医協」を概観する。「わが国では、病院による病床規制等を除いて、医療機関の開設も標榜する診療科も公的には規制されず、また患者は受診する医療機関を自由に選ぶことができる、いわゆる"フリーアクセス"が認められており」、「基本的に、医療サービスの価格である診療報酬の点数と、それを受け取ることができる条件を規制して、医療サービスのマーケットを制御しようとしている」のだ。森田氏は2012年、2014年の2回の診療報酬改定に関った。
第2章で、「物語の展開」として、前回答申から、診療報酬を決める今回の答申が決まるまでのおおむね2年間にわたる審議のプロセスが詳説される。まさに山あり谷ありである。
第3章で、本書の目的である会議での議論の仕方や、人間同士の議論における戦い方を考察する。題して、「役者と演技―論法と『顔』」だ。戦いにおいては、あるときは「顔を潰して」、あるときは「顔を立てる」ということが臨機応変にできることが重要であるという。また、「議論のワザ」として、言葉の多義性を利用したり、揚げ足取りをしたり、とにかく自分の主張を有利にするために、委員が行うさまざまな議論の仕方について具体例をあげて解説する。さらに「中医協の経済学」として、積み上げの原価主義重視、消費者視点の希薄さ、価格競争への強い忌避感を指摘する。エビデンス重視が難しい議論の実態、委員の抵抗・妥協、会長の振る舞い方など、鋭い考察とともに、中医協の会議の実態が活写される。