愚説に惑わされて、やらなければならない改革を先送りするな
本書では、前述のように、トンデモ社会保障論に対する具体的な反論のほか、著者が長年、大学の授業を続ける中で洗練されてきたシラバスに基づき、「社会保障は何のため」、「社会保障は誰のため」など社会保障に関するオーソドックスで基本的な考え方が、具体的でわかりやすく展開されている。
そして、最終章において、今、進められるべき改革が語られる。
「日本の社会保障にとって今必要なことは、愚説に惑わされて不必要に動揺し、本当にやらなければならない改革を先送りしないことです。この当たり前のことが日本では長い間おかしなことになっていました。それもそのはずで、この10年間、日本の社会保障はこれ以上にないほどに政争の具にされてきたからです」
具体的には、主要3分野について、それぞれ以下のメニューが示されている。
【子育て支援】子育て費用の社会化を進めること。具体的には未だ目途の立っていない消費税以外の財源(0.3兆円)を確保し、保育園等の職員配置を充実すること。 【医療・介護の一体改革】2025年に向けて、医療と介護の提供体制の改革を進める。とりわけ「地域包括ケア」を構築していくこと。 【年金改革】公的年金の「防貧機能の強化」。具体的には(1)手厚い給付が受けられる被用者年金(厚生年金)をできる限り多くの方に適用すること(2)今の若者が将来年金を受ける際の給付水準の底上げが図られるよう、デフレ下でも現在の高齢者の年金額にマクロ経済スライド(労働力の減少分と平均寿命の延び分を引き下げる仕組み)を適用すること、そして(3)基礎年金の保険料納付期間を現在の40年から45年に延ばすこと。
いずれのメニューも、2013年8月にまとめられた社会保障制度改革国民会議の報告書の延長線上にあるものだ。そして多くの関係者がこうした改革の実現を望んでいる。
一方、昨今の消費税率の引上げ再延期の動きの中で、その基盤となっていた社会保障・税一体改革に関する民自公の3党合意が危うくなっており、今後の社会保障改革の行方が見通しづらくなっていることが気がかりである。
著者自身があとがきで言及しているように、この10年間の社会保障をめぐる政治過程を振り返ると、「社会保障という、現代の政府が行っている最大プロジェクトの役割と意義を理解してもらうためには、なかなか前途は多難な状況」ではある。
しかし、「それでもやらなければならないんですね。日本という国が、生きづらい国になるのを避けるため、いや、できれば今よりももっと住みやすいところにしていくためには、社会保障を正確に理解してもらい、変えるべきところは着実に変えていくことに、みなさんの協力がどうしても必要となるからです」
社会保障に対する理解が進み、少子高齢化という未曽有の状況下において、必要な改革が着実に実施されていく環境が整っていくことを期待したい。
JOJO(厚生労働省)