2020年、懐かしの東京が消えるのか 「ディープツアー」で残影たどる

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   消えゆく昔日の東京を懐かしむような本の出版が続いている。大型書店の「東京」コーナーをのぞくと、何冊も並んでいる。その中の代表格と言えそうなのが『東京ディープツアー』(毎日新聞出版、2016年6月15日刊)だ。

   東京にまだほんの少し残る戦前・戦後や昭和モダンの面影を、貴重な写真と抑制の効いた文章で紹介している。

  • 『東京ディープツアー』(毎日新聞出版刊)
    『東京ディープツアー』(毎日新聞出版刊)
  • 「軍艦島全景」
    「軍艦島全景」
  • 「消えた赤線放浪記」
    「消えた赤線放浪記」
  • 「東京『暗渠』散歩」
    「東京『暗渠』散歩」
  • 「団地の見究」
    「団地の見究」
  • 「工場萌え」
    「工場萌え」
  • 「場末の酒場、ひとり飲み」
    「場末の酒場、ひとり飲み」
  • 「東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く」
    「東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く」
  • 『東京ディープツアー』(毎日新聞出版刊)
  • 「軍艦島全景」
  • 「消えた赤線放浪記」
  • 「東京『暗渠』散歩」
  • 「団地の見究」
  • 「工場萌え」
  • 「場末の酒場、ひとり飲み」
  • 「東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く」

名うての達人たちが道案内

   第1章は「近代の軌跡」。鉄道や水道など首都のインフラを作った大型施設の遺物をめぐっている。第2章は「路地と迷宮」。路地裏の酒場や旧色街の残影から庶民生活のにおいをたどる。第3章は「都市の変容」。消えた街、変わる街、変わらぬ街の点描だ。

   編著者はメディアクリエーターの黒沢永紀氏。全国各地の産業廃墟を映像・書籍・ウェブ・写真などで追い続けている人だ。特に軍艦島には詳しい。『軍艦島全景』などいくつもの著書がある。

   そのほか4人の書き手が執筆している。いずれもディープな都市案内では名うての達人たちだ。『消えた赤線放浪記』など「赤線」関係の著書で知られる木村聡氏、『東京「暗渠」散歩』の本田創氏、『団地の見究』『工場萌え』の大山顕氏、『場末の酒場、ひとり飲み』『東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く』などの藤木TDC氏。近作も少なくない。それらの「おいしいところ」を取って、エッセンスを集約したのが本書ともいえる。

「東京の残像」という墓標を巡る旅

   サブタイトルは「2020年、消える街角」。東京は明治維新の近代化、関東大震災、大空襲、1964年の五輪、バブルと湾岸開発で、大きくその姿を変えてきた。こんどのオリンピックで戦前の帝都や戦後の闇市の痕跡はいよいよ完全に消えるのではないか――著者らにはそんな焦燥感もあるようだ。

   本書には多数の貴重な写真が収められている。壊れかけの古い建物や忘れられた施設が多い。なぜか人物の影はほとんど見当たらない。街をつくり、そこに生きた人々はすでにこの世にいないということを示唆しているかのようだ。

   「ディープツアー」とは、いわば「東京の残像」という墓標を巡る旅だ。そこに生きた無名の人々と、その営みへの哀切の情を抜きにしては成り立たない。「聖地巡礼」や「墓地めぐり」に類する行為であり、節度と敬虔さが求められる。

   だから本書では、のぞき見的な好奇心で探訪して、生活の場を荒らさないようにと注意を呼びかける。「色街残照」の担当者はこう記している。

    「ネット上には『赤線跡』に関する様々な情報があふれている。かつての色街を探訪することは町歩きの一ジャンルとしてすっかり定着したようだ・・・一つ心に留めておかなくてはならないのは、探訪者イコールその町にとっては闖入者だという、当たり前の事実だろう」

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