「東京の残像」という墓標を巡る旅
サブタイトルは「2020年、消える街角」。東京は明治維新の近代化、関東大震災、大空襲、1964年の五輪、バブルと湾岸開発で、大きくその姿を変えてきた。こんどのオリンピックで戦前の帝都や戦後の闇市の痕跡はいよいよ完全に消えるのではないか――著者らにはそんな焦燥感もあるようだ。
本書には多数の貴重な写真が収められている。壊れかけの古い建物や忘れられた施設が多い。なぜか人物の影はほとんど見当たらない。街をつくり、そこに生きた人々はすでにこの世にいないということを示唆しているかのようだ。
「ディープツアー」とは、いわば「東京の残像」という墓標を巡る旅だ。そこに生きた無名の人々と、その営みへの哀切の情を抜きにしては成り立たない。「聖地巡礼」や「墓地めぐり」に類する行為であり、節度と敬虔さが求められる。
だから本書では、のぞき見的な好奇心で探訪して、生活の場を荒らさないようにと注意を呼びかける。「色街残照」の担当者はこう記している。
「ネット上には『赤線跡』に関する様々な情報があふれている。かつての色街を探訪することは町歩きの一ジャンルとしてすっかり定着したようだ・・・一つ心に留めておかなくてはならないのは、探訪者イコールその町にとっては闖入者だという、当たり前の事実だろう」