消えゆく昔日の東京を懐かしむような本の出版が続いている。大型書店の「東京」コーナーをのぞくと、何冊も並んでいる。その中の代表格と言えそうなのが『東京ディープツアー』(毎日新聞出版、2016年6月15日刊)だ。
東京にまだほんの少し残る戦前・戦後や昭和モダンの面影を、貴重な写真と抑制の効いた文章で紹介している。
名うての達人たちが道案内
第1章は「近代の軌跡」。鉄道や水道など首都のインフラを作った大型施設の遺物をめぐっている。第2章は「路地と迷宮」。路地裏の酒場や旧色街の残影から庶民生活のにおいをたどる。第3章は「都市の変容」。消えた街、変わる街、変わらぬ街の点描だ。
編著者はメディアクリエーターの黒沢永紀氏。全国各地の産業廃墟を映像・書籍・ウェブ・写真などで追い続けている人だ。特に軍艦島には詳しい。『軍艦島全景』などいくつもの著書がある。
そのほか4人の書き手が執筆している。いずれもディープな都市案内では名うての達人たちだ。『消えた赤線放浪記』など「赤線」関係の著書で知られる木村聡氏、『東京「暗渠」散歩』の本田創氏、『団地の見究』『工場萌え』の大山顕氏、『場末の酒場、ひとり飲み』『東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く』などの藤木TDC氏。近作も少なくない。それらの「おいしいところ」を取って、エッセンスを集約したのが本書ともいえる。