「日本人ではなく、アメリカ人なのだ」
本書の著者は、現在NHKの管理部門に勤務されているとのことであるが、以前は政治部の記者を務め、また、2000年~2004 年の間はNHKのロサンゼルスの特派員を務めている。本書では、ムネモリ氏、ミネタ氏に限らず、第二次大戦中の日系人の強制収容をはじめ、日系人が随所で受けてきた屈辱的な体験が紹介されている(いずれも衝撃的なものばかりであり、詳細は本書に譲る。)。どれも緻密な取材に基づくものであり、この点は著者に敬意を表する一方、日系人がこうした仕打ちに対してどうやって心理的な決着を付けてきたのか。自ずと「自分は日本人ではなく、アメリカ人なのだ」という姿勢を強調して生きていかざるを得なくなるのだろう。これが「日本人」と「日系人」の決定的な違いであり、また、日系人の苦悩の本質なのではないかと思う。
私は2001 年~2003 年の間ロサンゼルスに留学していた。著者のロサンゼルス赴任の期間と重なっていたこともあり、本書は当時の記憶を思い出させる箇所が随所にあった。ロサンゼルスの中心部には「リトル・トーキョー」という日系人のコミュニティがあるが、韓国系のコミュニティや中国系のコミュニティと比べれば規模は小さく、どこか寂れた印象を受けた。かつては「アジア系初」を独占し、アジア系移民のいわばフロントランナーであった日系人であるが、現在は中国系や韓国系に押されている。リトル・トーキョーは日本以上に高齢化が進行していて、日系人向けのスーパーマーケットが韓国系資本に代わる等、アジア系のコミュニティとの融和が進んでいるとのことである。本書ではその例がいくつも紹介されているが、これらは、かつて経済大国としてアジアのフロントランナーであった日本の今後のアジアの向き合い方としても参考になるものかもしれない。
銀ベイビー 経済官庁 Ⅰ種