夏になると、「お化け」をテーマにしたイベントが増える。2016年のイチオシは「大妖怪 土偶から妖怪ウォッチまで」展だ。東京都墨田区の江戸東京博物館で7月5日に開幕する。
「妖怪」というと、とかくキワモノ扱いされがちだが、伊藤若冲、葛飾北斎、喜多川歌麿...江戸期の人気絵師たちが「化け物」を描いた「隠れた名作」も一挙に公開される。ハイレベルの日本美術展として見逃せない。
国宝や重文ずらり、「ゆるきゃら」のご先祖も
サブタイトルにあるように、縄文時代の土偶から平成の「妖怪ウォッチ」まで、出品作は多種多様だ。諸国の珍幻獣をまとめた図鑑「姫国山海録」(きこくせんがいろく、江戸中期)、腹の虫をキャラクター化して解説した珍本「針聞書」(はりききがき、16世紀)など、ふだんあまり見る機会のないものも多い。日本の妖怪の歴史を一覧できる。
特に出色なのが、絵画作品だ。国宝や重要文化財だらけ。日本絵画史上、異界の生き物としての「鬼」や「化け物」が登場するのは平安時代の末期とされる。出品作の国宝「辟邪絵 神虫」(へきじゃえ しんちゅう)はその時代の貴重な作品だ。得体のしれない巨大な甲虫が、鬼のようなものをわしづかみにする様子などを描いて不気味だ。
古いものではこのほか「土蜘蛛草紙絵巻」(14世紀)や、京都・真珠庵蔵の「百鬼夜行絵巻」(室町時代)などがある。いずれも重要文化財だ。「百鬼夜行」という言い回しは、今もおどろおどろしさの代名詞として使われるが、作品を見る限り、コミカルで、愛らしい鬼もいる。現代の「ゆるきゃら」につながるような一面もうかがえる。異界に住む彼らを当時の人々がどう見ていたのか。単に畏怖していただけではないようだ。
江戸の絵師も大活躍
中世に生まれた妖怪や幽霊たちは、江戸期に入って大増殖した。掛け幅に描かれ、歌舞伎などでも大役を与えられる。「ゲテモノ」「見世物」「怪奇もの」としていわば「市民権」を得た。今回はそんな江戸期の出品物が際立つ。
たとえば若冲の「付喪神図」(つくもがみず)。古い土蔵に眠る年代物の茶道具などに、いつのまにか神が宿る様子を描いたものだ。古民具類が極端にデフォルメされ、眼や鼻が付くなど擬人化されている。見慣れた若冲の細密絵画とは全く異なる寓話の世界だ。フランドルの画家ヒエロニムス・ボスの幻想画や、20世紀のシュールレアリズム、CGアニメ「機関車トーマス」などともどこかイメージが重なる。若冲ワールドの多彩ぶりを改めて知ることができる逸品だ。
このほか、北斎「狐狸図」「百物語 お岩さん」、歌麿「化物の夢」など、日本美術史に燦然と輝く大家たちの「裏メニュー」作品が並ぶ。当時の一流の絵師は、美人画を手掛ける一方で、こぞって「妖怪」にも挑んでいたことがわかる。
なかでも歌川国芳の「相馬の古内裏」は強烈だ。美術史家の辻惟雄氏によって、若冲と共に「奇想の画家」として再評価された国芳だが、ろっ骨をむき出しにした巨大な骸骨が襲い掛かってくる大胆な構図にはド肝を抜かれる。その国芳の弟子で、幕末から明治期に活躍し、最後の浮世絵師とも言われた月岡芳年も見逃せない。「残酷画」で人気を博したというだけあって、おどろおどろしさは格別だ。
今回の展覧会は、ただ国宝・ 重文をはじめとする一級品美術を展示するだけではない。壁にはハイテクを使った巨大妖怪の映像なども仕掛けられ、突然それらが動き出したりする。会場自体が、巨大な「びっくり箱」「ワンダーランド」となっている。「妖怪ウォッチ」が特集された展示室もあり、夏休みに親子連れて楽しめるイベントともなっている。
展覧会は8月28日まで。公開期間が限られた作品が多いので、事前にホームページなどで確認しておきたい。