音楽院院長として新大陸アメリカに招聘される
彼がニューヨークに招かれたのは、「アメリカの音楽」を作ってもらおうという招聘元の意向がありました。故郷チェコの音楽を見事に作り上げた人物としてドヴォルザークは既に高く評価されていたからです。彼が、アメリカで書き上げた交響曲第9番には、「新世界より」という題名が付いています。これは新大陸アメリカから、故郷ボヘミアへ、という意味があり、アメリカで触れた黒人音楽などが故郷の民謡に通じるものがある、と感じて作られたといわれています。決して、「新世界」だけの音楽ではないのです。
彼の鉄道趣味も、チェコからニューヨークに移動しても不変でした。交響曲第9番の最終4楽章は、弦楽器のゆっくりした力強いフレーズから始まり、金管楽器が高らかはいってきますが、私にはこれが蒸気機関車の動き――ちょうどオネゲルの「パシフィック231」と同じような――に聴こえます。中間部ではボヘミアの民謡を思わせるのどかな旋律もありますが、これは故郷を疾走する列車のイメージに重なります。ニューヨークを出発した大陸横断鉄道は、ドヴォルザークの心の中で海を渡り、ボヘミアの大地を駆け巡っているかのようです。
「列車が自分のものになるなら、今まで作曲した全作品と交換してもよい」というぐらい鉄道趣味に没頭したドヴォルザークの、鉄道愛と、故郷への愛が織り込まれたこの交響曲は、クラシック音楽の代表曲として、全世界の人々に広く愛されています。
本田聖嗣