「漁夫のフレスコ画」と「海の幸
4大文明の一つとか、日本も影響を受けたヘレニズム文明と聞いても、ギリシャはあまりに遠い。何かもう少し身近な作品はないものだろうか。そう思いながら、会場を巡ると、わかりやすい作品に出会う。「漁夫のフレスコ画」だ。
赤茶けた裸体の若者が両手にたくさんの魚をぶら下げている。高さ117センチ。若者の筋肉の盛り上がりや、ウエーブのかかった頭髪、利発そうな眼差しも読み取れる。躍動感がみなぎる身体。今から約3700年前、紀元前17世に制作されとは思えないほど鮮やかな色彩だ。
若者は単なる漁師ではないという。神に豊漁を感謝するため、海の幸を貢物として捧げようとしているらしい。
どこかで見た記憶がある絵のような気がする...。思い出すのは、青木繁(1882~1911)の「海の幸」(1904年)だ。大きな魚を背負い10人余りの男女が浜辺を歩いている。明治期の日本の洋画を代表するインパクトの強い作品だ。こちらは横長の群像画だが、その中の1人を抜き出せば、「漁夫のフレスコ画」とイメージが重なる。
「海の幸」は日本神話の世界「海彦山彦」をモチーフにしたという。ふたつの作品に共通するのは、豊かな恵みをもたらす大自然=神へのリスペクトだ。古代ギリシャのフレスコ画が、時空を超えて20世紀の日本の作品とつながる。ちなみに青木は少年時代、アレクサンドロス大王に強く憧れていたそうだ。