かつてない規模の「古代ギリシャ展」が2016年6月21日から東京国立博物館で始まる。特別展「古代ギリシャ-時空を超えた旅-」だ。ギリシャ国内40か所以上の国立博物館群から300件を超える貴重な作品が集められた。9割が日本初公開だという。
最古のエーゲ文明やヘレニズム...神と人間が織りなす壮大なロマンに思いを寄せて西欧文化の源流をたどる。民主主義のルーツ「陶片追放」も出品されている。現代の日本とも無縁ではない特別展だ。
哲人と英雄の交わり
「哲学者アリストテレスはプラトンの弟子で、アレクサンドロス大王の家庭教師でもあった」――この短文からだけでも、古代ギリシャ文明の凄さが分かる。たった一行の中にプラトン(前427~前347)、アリストテレス(前384~前322)、アレクサンドロス大王(前356~前323、英語読みはアレクサンダー)と、今も歴史に名を残す3人が登場する。本展の出品作品「アリストテレス像」に付けられた解説文の一節だ。
アリストテレスは、哲学、論理学から自然科学まで何でもこなした古代史上屈指のオールマイティだ。今でいえば「知の巨人」。17歳のころプラトンの門下に入り、頭角を現す。42歳のころ、当時はまだ13歳で王子だったアレクサンドロスの家庭教師役として招かれた。王子はアリストテレスの薫陶を受けて成長、空前の規模の巨大帝国を作り上げる。
古代ギリシャは都市国家(ポリス)の連合体だった。それを統一したのがアレクサンドロスの父、フィリッポス2世王だ。ギリシャ北方のマケドニアから全土を制圧した。偉業をたたえて当時のアテネでは王と王子の彫像が盛んにつくられた。出品作「アレクサンドロス頭部」は彼の生前、18歳の姿を彫ったもので、保存状態のよい貴重な作品だ。
「アリストテレス像」や「アレクサンドロス頭部」をじっと眺めていると、「哲人」と「英雄」の師弟の交わり、彼らがつくった時代と文明の成熟ぶりが浮かび上がってくる。アリストテレスは東征中の教え子に『王道論』や『植民論』を送った。アレクサンドロスは遠征先から珍しい動植物を届けて師の研究に貢献した。のちに「高貴に生きることはアリストテレスから学んだ」との言葉を残したという。