"最初の欧州大戦"の時代を反映 奇妙な小編成によって彩られる「兵士の物語」

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欧州にとどまらなかった戦火の拡大を暗示

   しかし、この一風変わった音楽物語――オリジナルには副題として「朗読され、演奏され、踊られる物語」となっていますが、アンサンブルと朗読だけでも上演されます――は、作曲されたのが、1918年なのです。欧州が最初の大戦に巻き込まれた第一次大戦の最終年(1914~1918)です。開戦直前まで、文化の爛熟期を迎えていたフランスのパリで、ロシア・バレエ団に音楽を提供し、センセーショナルな成功をおさめていたストラヴィンスキーでしたが、「兵士」が活躍する戦争の時代になって、状況は一変しました。祖国は戦争から革命に突き進んだため、彼はロシアでの財産を失い、帰るべき場所もまた失ってしまったのです。

   戦争からは距離を置くヨーロッパの小国であるスイスに居を定めたものの、ストラヴィンスキーは、途方に暮れていたはずです。ヨーロッパの国々は荒廃し、パリでさえ、戦前の輝きは戻ってきません。

   そのような中で、彼は、7人の楽器奏者と、語り手がいれば上演できる、奇妙な、そして悲劇的な物語、「兵士の物語」を作り出すのです。ストラヴィンスキーの激しく変わるリズムや、一風変わった旋律などの、彼独特の音楽の世界に、「タンゴ」や「ラグタイム」や「ワルツ」といった舞曲が取り込まれています。それはあたかも、大戦が欧州だけでは終結できず、新大陸から来た兵士たちの力を借りて、戦争が終結したことを暗示しているようです。

    時代も不安に満ち、自らの境遇も不安に満ちていたであろうストラヴィンスキーがその時期に書いた不思議な音楽劇、「兵士の物語」は、平和の時代になっても、小編成でも上演できることもあり、頻繁に演奏される人気曲となっています。日本では、語り手に舞台俳優を迎えることが多く、私も、江守徹さんが朗読をした上演がとても印象に残っています。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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