先週は、ロシアに生まれ、革命後のソビエトに帰った近代の作曲家、プロコフィエフの子供向け音楽物語作品をとりあげましたが、同じようにロシアに生まれ、フランスで名を上げた後、混乱の祖国には帰らなかった作曲家の登場です。プロコフィエフも斬新で個性的な作風でしたが、この人は、彼の少し前を、同じく前衛作曲家として走っていました。
ロシアの作曲家、イーゴリ・ストラヴィンスキーの、ちょっと変わった朗読付き音楽劇、「兵士の物語」を取り上げたいと思います。
休暇をとった兵士が悪魔と出会い、取引...
プロコフィエフの「ピーターと狼」は子供向けの作品ですが、「兵士の物語」は大人向け寓話、といえるでしょう。もとの物語はロシアの民話でしたが、それをストラヴィンスキー自身が、当時居住していたスイスの友人の作家、ラミューに話して聞かせ、台本を製作してもらいました。それまでパリでロシア・バレエとともに活躍していたストラヴィンスキーはフランス語が堪能だったので、ロシア語のわからないラミューはストラヴィンスキーの語りからフランス語の台本を完成させます。後に、各国語に訳されますが、オリジナルはフランス語です。ですが、お話の内容はロシアの民話的色彩が強いものです。
主人公は休暇をとった兵士で、故郷に帰る途中、悪魔と出会い、取引をします。悪魔の力で、いろいろなものを手に入れ、刹那的な幸福に浸るも次第に何か違う...と思い始め、そこにまた悪魔が現れて...という悲劇なのですが、もともと帝政時代のロシアの過酷な徴兵の様子や、軍隊の状況が反映されているといわれています。