最後は何とかなるというオプティミズム
井堀利宏東京大学名誉教授は、最近出版した「消費増税は、なぜ経済学的に正しいのか―『世代間格差拡大』の財政的研究」(ダイヤモンド社 2016年3月)で、財政赤字を楽観させる「経済成長の自然増収で財政再建はできる」、「消費税増税は負担が大きく、先送りすべきだ」、「2020年までに基礎的財政収支が均衡できれば、財政再建できる」、「歳出削減と増税を実現すれば、2020年代以降も乗り切れる」は、誤解であると指摘する。
また、財政悪化の要因を「政治が若い世代や将来世代の利害を十分に考慮することなく、その場しのぎで先送りの政策決定をしてきたことにある」が、「そうした先送りも少子高齢化社会を迎えて限界に達しつつ」あり、2025年ごろには、財政・社会保障制度が破綻してしまいかねないという。そして、減り続ける若者が多くの年配層を支える賦課方式の社会保障制度が続く限り世代間不公平は解消されないとし、受益と負担を一致させる、社会保障における個人勘定の方式を提唱する。
2016年6月号の「中央公論」(2016年5月)では、評者が、このコラムの第1回目(2012年9月20日 最近の日本が「元気」を失った理由 「旧日本軍の組織」検証本から探る)で取り上げた「失敗の本質」(中公文庫 1991年)が特集されている。この特集の中で、新浪剛史サントリーホールディングス社長は、「...日本では、成功体験がそのまま進化して、精神論になっていく。これは多分、日本の文化だと思うのです。最後はなんとかなるという超オプティズム(超楽観主義)が、心の奥底にありますよね。同時にダメなら仕方ないという超ペシミズム(超悲観主義)があって、その入れ替えがしょっちゅう起きているのです。...日本はペシミズムの塊なのに、最後は何とかなるというオプティミズムがあるわけで、海外からはわかりにくい国ですね。」と指摘しているのが、最近の情勢を観ても遺憾ながら正鵠を得ているのではないだろうか。
2020年東京オリンピックの開催後に、国内経済社会は大混乱で、G7のメンバーからも滑り落ちた、といった想像もしたくない「経済敗戦」の事態を防ぐために、「国民、政府、議会の理性」(小峰教授)がいまや試されている。
経済官庁(総務課長級 出向中)AK