無価値に等しい土地が生まれ変わった
元首相が退陣に追い込まれたのは、立花氏による「金脈追及」がきっかけだった。ファミリー企業による錬金疑惑が厳しく問われた。立花氏は『研究』でこう書いている。
「いまだに根強く残っている田中伝説の、苦学力行、刻苦勉励による叩き上げの成功者というイメージが田中にふさわしいのは、二十四歳までで、それ以後田中がやってきたことは、正業とはいいがたい」
金脈追及は21世紀になっても続いている。新潟日報は2007年12月13日、「柏崎原発用地の売却益4億円、田中元首相邸へ 本間元秘書証言 総裁選前年 闇献金流用か」という記事を載せた。東京電力が柏崎刈羽原発建設のため用地買収を進めていた1971年ごろの話だ。原発用地の買収で得られた巨額の資金が、政界への闇献金として流れたという「原発利権」の一端をうかがわせている。
『天才』では「金脈」についての言及はほとんどないが、裁判にもなった「信濃川河川敷問題」についてはこう反論する。
「堤防建設を本堤工事に格上げさせ、国道八号線バイパスとして長岡大橋、大手大橋が建設され、土地の価格は高騰し、俺のファミリー企業の室町産業がプロジェクトに沿って安価で購入した土地も高騰はしたが、しかしそれに沿ってあの無価値に等しかった広大な土地は多くの者たちのために幅広く有効性のある土地として生まれ変わったのだ」
「要は誰がいかに発想して土地と水と人間たちを救うかということだ。そうした新しい発想の実現でつくりだした金を、俺は俺自身のために用立てたことなどありはしない」