「すきじかん」はNTTドコモが15年10月から始めた会員制サービスだ。300以上のコースの中からチャレンジしたいものを会員が自由に選んで、毎月1回体験できる。
コースのメニューはスポーツ系から習い事、サービス体験まで豊富にそろっている。どれを選べばいいのか悩ましいほど。その中で老若男女関係なく楽しめる「酒蔵見学」を今回試してみた。300年の歴史を持つ造り酒屋で「澤乃井」で知られる「小澤酒造」(東京都青梅市)を見学し、最後にきき酒を体験できる。しかもお土産付き。「すきじかん」の一発目としてちょうどよいコースといえよう。山の緑が美しい2016年5月下旬、トレンド編集部は現地を訪れた。
「東京の地酒」の魅力が凝縮されている
小澤酒造はJR青梅線沢井駅から徒歩5分ほどで着く。坂を下り青梅街道に出ると、目の前に正門が見える。右手が白壁の蔵で、左手がかやぶき屋根。工場はその奥にある。
見学コースの所要時間は約45分。社員が当番で案内人を務め、小澤順一郎社長自ら案内することもあるそうだ。最初に見学控室「酒々小屋(ささごや)」でお酒に関する説明を受ける。10分ほどの講義が終わったら、いよいよ「蔵」――工場の中に入る。
扉の上に神棚があるのに気付いた。案内役の営業部・小澤幹夫さんが次のように説明してくれた。
「ここで毎朝、社員一同が2礼2拍手1礼しています」
「もともとお酒は神様に奉納するものとして始まりましたから」
芳香が満ちる蔵の中を歩く。明治時代から増改築を繰り返した建物の柱や梁(はり)は迫力がある。居並ぶ貯蔵用タンクも想像以上に大きい。歴史ある建物内部は清潔な印象だ。聞けば掃除には徹底的にこだわっているという。
近代的な設備も積極的に導入している。「上槽(じょうそう)」は、発酵してドロドロ状態の醪(もろみ)をしぼって、酒と酒粕(さけかす)に分ける重要な工程だ。機械の導入によって重労働が軽減されたという。上槽室の前には原料となる米のサンプルが置いてある。酒に特化した米である山田錦は、ササニシキやコシヒカリと粒の大きさがまるで違う。
「蔵の井戸」は小澤酒造にとって命の水源だ。関東から西日本に広がり"古代水"の源とされる「秩父古生層」の洞くつからの湧出水で、東京の名湧水57選に選ばれている。この井戸は山の斜面に水平に掘られている。山の地層がろ過機能を果たし、たまっている水は驚くほど透明だ。約150年前に井戸は掘られ、その長さは数百メートルにおよぶ。
小澤酒造は、近くを流れる多摩川のほとりに「澤乃井園」という庭園を直営しており、きき酒処はここにある。常時10種類ほどの中から、酒蔵見学者は3杯まで楽しめる。10種類のなかには、今年4月発売の「凰(こう)」も。「凰」は、山田錦(特A)を35%精米し、最高の技術で造り上げ、1800ミリリットルで1万800円(税込)。このほかにも「芳醸参拾伍」「純米大吟醸」「彩は(いろは)」「蔵守(くらもり)」と逸品が並ぶ。日ごろなかなか口にできない極上品を飲み比べできる――酒好きにとって最高のぜいたくだ。取材スタッフの一人はめったに日本酒を飲まないのに、口に含んだ瞬間「うまい!この芳醇(ほうじゅん)な味わいは何なのだろう」と声を上げた。
澤乃井園にはあずまや風の売店・軽食コーナーもあり、座席から渓流が見渡せる。先ほどの井戸水も配水されていて無料で飲める。豆腐料理をふるまうレストラン「豆らく」、料亭「ままごと屋」、展示スペースの「澤乃井ガーデンギャラリー」も園内に立地する。さらに多摩川にかかる吊り橋を渡ると、鐘付きができる寒山寺や、江戸から昭和に至る3000点のコレクションを集めた「櫛(くし)かんざし美術館」がある。
立派な酒蔵と酒の味、渓流の景色もさることながら、すれ違う社員一人ひとりが礼儀正しく、心が和む。青梅の自然がそうさせるのだろうか。季節に関係なく再訪したくなった。