ここのところ、交響曲などの大規模な作品をお勧めすることの多かったこのコラムですが、今日取り上げる曲は、演奏時間わずか2分40秒ほどの小さなピアノ曲です。ロマン派の作曲家、ロベルト・シューマンの「美しき五月よ、お前はまたやってきた!」です。
この曲は、シューマンの作曲した「子供のためのアルバム Op.68」の13曲目に収められています。
障害乗り越え恩師の娘と結婚、7人の子宝に恵まれる
21世紀の現代においては、先進国では少子化が顕著、平均年齢の高齢化とワンセットで社会保障などの悩みがどの国にもあります。しかし、作曲家に限らず、音楽家は今も昔も経済的に恵まれる職業とはいいがたいので、19世紀においても「子だくさん」な音楽家はそう多くありません。医療技術の未発達や栄養が限られていることもあり、乳幼児死亡率は現代と比べたら比較にならないほど高く、どの家庭も子沢山が当たり前だった時代においても、音楽家は旅が多く、夜の仕事も多く、経済的に不安定で、家庭生活の安定とは程遠い職業といえました。名曲を数多く残したベートーヴェンやシューベルトやショパンは、残念ながら直系の子孫は残してくれませんでした。彼らはそもそも結婚していませんでしたし、ショパンは滅びた祖国から脱出した亡命の身で病気がち、シューベルトは困窮の極み、ベートーヴェンは音楽に人生をささげすぎて女性から遠慮される...などなど、それぞれの事情がありました。
シューマンも、結婚には障害がありました。彼は、自分のピアノの恩師フリードリッヒ・ヴィークの娘、クララと恋愛関係になったのですが、ヴィーク氏が、弟子といえども、クララとは年齢差がかなりあり、将来が危うい若手の作曲家・音楽評論家だったシューマンに、娘を嫁入らせることに大反対だったのです。結局、シューマンは裁判まで起こして結婚にこぎつけます。結果的に、クララ=シューマンとなったピアニストの彼女は、夫ロベルトを演奏家として支え、彼が病気で若くして亡くなった後も、ピアニストの「細腕」で家族を支えるという大活躍をしました。そして、この夫婦は、成人した子供だけでも7人というたくさんの子宝に恵まれています。