高級料理はどうか
3枚の粘土板のレシピは40に上る。本書はその全訳を示すが、いずれも高級料理とされる。肉類を脂や香味材料とともに煮込む料理が多い。職人の伝承であるため、火を通す時間、食材の分量や入れる順序など経験知に委ねられる部分は全て省略され、極めて簡素な記述となっている(末尾に具体例を挙げる)。
盛り付けの例が面白い。煮込んだ肉を取り出し、皿に伸ばして焼いたパンの上に載せ、小さなパンを散らした上で、上から別のパンで蓋をする。パン型も魚の形など多種多様のようで、なかなかに凝っている。
供される場面は、神殿での神への捧げものや、王族や貴族の宴会であった。瞠目させられるのはその量だ。
別の粘土板から「『1年を通じて毎日、四回の食事において』神々にささげる肉類の小計」が引用されている。
「肥った無傷の一等級の牡羊で二年間麦を食べさせたもの二一匹、乳を飲ませた特別飼育の牡羊四匹、乳を飲ませない二等級の牡羊三五匹、大型牡牛二頭、乳を飲ませた子牛一頭、子羊八匹、マッラトゥ鳥(?)三〇羽、雉(?)三〇羽、粉を練った飼料で育てたガチョウ三羽、小麦粉飼料で育てたアヒル五羽、二等級のアヒル三羽、おおやまね(?)四匹、駝鳥の卵三個、アヒルの卵三個...。」
特別の一つの神に対するものではない。主要なものだけで4神ある複数の神々に、「国中の神殿で」「それぞれの神に」「毎日」捧げられた量だというのである! にわかには信じがたい。チグリス・ユーフラテス両大河の往時の豊饒さは想像以上である。加えて、「神々」の背後にある神官らの組織がいかに巨大かつ強力であったかも想像される。