3枚の粘土板に残された"最古のレシピ" 「食」にこだわる仏歴史学者が読み解き再現した"高級料理"

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■「最古の料理」(ジャン・ボテロ著、松島英子訳)

   古代メソポタミアと言えば、バビロン王朝のハンムラビ法典の一節、「目には目を、歯には歯を」が有名だ。

   この一見野蛮に映る規定は、実は過剰な報復合戦を防ぐためのものとされる。

   血で血を洗う現代中東情勢を思うと、そうした抑制が外れていることは残念だが、それだけにメソポタミア文明の洗練度合いが際立つ。

   その洗練された文明のもとで、何が料理され、食べられていたのか。

   1980年代、米イェール大学に保管されていた紀元前1600年頃の粘土板のうち3枚が「レシピ集」と判明した。中華文明でさえ、これほど古いレシピは現存しないとされる。

    本書はそのレシピを基に、メソポタミア文明論を展開したものだ。

  • 「最古の料理」(ジャン・ボテロ著、松島英子訳)
    「最古の料理」(ジャン・ボテロ著、松島英子訳)
  • 「最古の料理」(ジャン・ボテロ著、松島英子訳)

歴史の闇に光を照らす

   著者は「メソポタミアの料理の全体像を、その独自性が浮上するような形でつかみ取ろう」と試みる。

   だが如何せん、原典はたった3枚の粘土板に刻まれた楔形文字である。著者自身も「これは限りなく続く長編映画の限られた数コマに等しい」とする。そこで著者は、往時の神話なども用いて、アッカド学の大家たる歴史学者らしい分析を行い、往時の料理を再現していく。

   対象となる年代は紀元前4000年から紀元前400年代(あるいはより後代)と幅広い。原資料の乏しさから、章立ては年代順ではなく、「かまど料理用具」「したごしらえ」「冷たい料理」「飲み物」「死者の食卓」等々とされる。これが奏功し、メソポタミア史に暗い評者にも読みやすかった。

   散文的な部分もあるが、古代の叙事詩の数行など、わずかな情報から謎解きを行っていく過程には引き込まれる。

【霞が関官僚が読む本】現役の霞が関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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