食めぐるインタビューで描く人物像...ストーリーとビジュアルが想像を掻き立てる

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「食べる私」(平松洋子、文藝春秋刊、1750円+税)

   「食べものについて語れば、人間の核心が見えてくる」と、著者の平松洋子さんはあとがきで書いている。グルメルポでなく、料理の話でもなく、食の話でインタビューして、その人の核心を書く。すごい挑戦である。

   登場人物は29人。デープ・スペクター、黒田征太郎、ギャル曽根、光浦靖子、大宮エリー、高橋尚子、畑正憲、金子兜太など、連載した「オール読物」編集部と人選したようだが、人間の核心を書こうすると、人生経験の豊かな人を選びたくなる。しかし、あまり人間の核心を書きすぎると話が難しくなってしまう。

   キャスターの安藤優子が26歳で一人暮らしを始めた時、天井のクモが這っているのを見て、「あっ、私以外の生き物がいる!」とはっとするくらい寂しかった。しかし、出張の多い身では生き物を飼えない。そこで始めたのが糠床。確かに生きている。出張に行くときは、近所の小料理屋さんに預ける。

    こういう話なら、人生の核心とまでいかなくても、その人が分かってホッとする。

  • 「食べる私」(平松洋子、文藝春秋刊)
    「食べる私」(平松洋子、文藝春秋刊)
  • 「食べる私」(平松洋子、文藝春秋刊)

素顔見せない"謎の作家"は写真NGの条件付き

   一人だけ、紹介ページに写真のない人がいる。インタビューの条件が写真なしだったのだろう。このインタビューがこの本のハイライトであり、著者が格闘している様子が分かる。

   タイトルに、「官能のモーツアルトと呼ばれたい」と宇野鴻一郎と会って、とある。あの、「あたし、濡れるんです」の作家だ。

   東大大学院で日本古代史を研究、作家としては芥川賞を受けている。しかし、世間が知っているのは官能小説の宇野だ。その素顔をほとんど見せないから、いっそう、謎の人物として世に存在している。

   「邸の扉が開くと、そこは日常から見事に切り離された異空間だった。静まりかえったエントランスホール正面に置かれたコンソールテーブルに、シルクハットとステッキ。...いっさいの生活感がない。...部屋の入りぐちに立つなり、息をのんだ。...社交ダンスのための空間なのだった」

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