一人、また一人と演奏者が去る第4楽章
そこで、ハイドンはこの交響曲を作曲したのです。交響曲 第45番「告別」は、通常の4楽章形式を持ち、演奏時間も約25分と立派な作品ですが、一つだけ顕著な特徴がありました。最終4楽章は、通常のスタイルの通り、速いテンポで激しく始まるのですが、途中で曲が終了したかのような和音が鳴り響いた後、突如スローテンポの3拍子となります。そして、転調をしつつ、演奏者が一人、また一人、と演奏を終えて舞台を離れてゆくのです。退席するときに、自分の席のろうそくを吹き消した...という電気がない時代のエピソードも残っています。最後はついにヴァイオリン2人となり、静かに曲は終わります。
古典派の交響曲としては大変異例なこの4楽章を聴いたニコラウス・エステルハージー公は、さぞ驚いたはずですが、同時にハイドンの真意を理解し、楽団員に休暇を指示したといいます。交響曲に仕掛けられたこの工夫も見事ですが、ハイドンに人望がなければ、公は休暇を認めなかったでしょう。部下のために休暇をそれとなく申請したわけですが、表だってお願いしたわけではないので、現代風に言えば「ブラック領主」と言われかねなかったニコラウス公の顔も立てたことになります。ハイドンは、公が死去するまで、宮廷楽長として彼に仕えることになります。
新しいことが多く、何かと気を遣う4月が終わり、大型連休がやってくる季節です。どれをとってもリラックスできるハイドン作品ですが、「告別」を聴いて、休暇に思いをはせてはいかがでしょうか?
本田聖嗣