オルセーから「羊飼いの少女」
もうひとつの見どころは、黒田が渡仏中に影響を受けた画家たちの作品だ。師ラファエル・コランの「フロレアル(花月)」(1886年)は、緑の草原に横たわる白い裸婦を描く。自然と一体化するその姿は、黒田の「野辺」とつながる気配がある。印象派からは、クロード・モネの「サンジェルマンの森の下草」が出品されている。
なかでも特筆されるのが、バルビゾン派の国民画家ミレーの「羊飼いの少女」(1863年頃)だ。「落穂拾い」や「晩鐘」とともに、フランス・オルセー美術館が所蔵するミレーの三大傑作のひとつだ。
広い平原に羊の群れを従えて編み物に没頭している少女。フランスの穏やかな農村風景を美しく切り取ってミレーの出世作となった。今年1月にはテレビ東京の「美の巨人たち」でも、ミレーの画風に一大転機をもたらした作品として紹介された。
1884(明治17)年に17歳でフランスに渡り、約9年を過ごした黒田。1887 年にはパリでミレーの大回顧展が開催され、この絵も出品されていた。その年末、黒田はモデル代にも困窮する中、ミレーの画集を購入している。共感するところがあったのだろう。
黒田は帰国後、東京美術学校で西洋画の教育を任され、日本の洋画界の頂点に立った。晩年は貴族院議員にもなった。本人の作品約200件に加え、フランスで影響を受けた画家や、同時代の日本の画家の作品なども含めた計240件からなる今回の大回顧展は、日本の洋画を切り開いた黒田の全容が分かる貴重な機会となっている。