「読書」や「湖畔」など、よく知られた作品だけではない。教科書には載っていない、何かと物議をかもした「裸体画」もいくつか。さらにはジャン=フランソワ・ミレーの代表作も――東京国立博物館(東京都台東区上野公園)で2016年5月15日まで開催している特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」は見どころの多い展覧会だ。
「教科書」からはみ出た作品も
同展のキャッチコピーのひとつは、「教科書でみた。でも、それだけじゃない。」
ちょっと気を持たせる思わせぶりなフレーズ。「それだけじゃない」ことのひとつに「裸体画」の展示があるだろう。
フランスで洋画を学んだ黒田が日本に持ち帰ってきたものに「裸体画」があった。ところが当時まだ日本では「裸体画」を芸術として受け入れる土壌がなかった。すでにフランスの展覧会で入選し高い評価を得ている作品でさえ、日本で改めて展示すると、論議になった。だから黒田が新たに日本で描いた全裸の婦人像「裸体婦人像」(1901年)はもっと物議をかもした。警察にとがめられ、公開の時は絵の下半身に布を巻くことを強いられた。これは芸術か、猥褻か――「腰巻事件」として騒動にもなった。
「俺は自由がほしい」とぼやきながらも、黒田はめげずに「裸体」に挑戦した。今回の回顧展では「裸体婦人像」のほか、「智・感・情」(1899年)や「野辺」(1907年)などが公開されている。「智・感・情」は今や重要文化財になっている。時代の常識を問い、「教科書」の枠内では収まりきらなかった黒田の逞しさ、先見性が感じ取れる。