母の看取りケアの経験―介護保険の枠内でデンマーク並みのケアが可能に―
第3部では、「末期がん、まだらボケ、要介護四」、「余命あと一か月」と言われた著者の母(享年95)が、4年半にわたって、自宅で様々な在宅サービスを受けつつ、旅立つまでの経験を語る。
退院直後は、母自身、「よその人が家に入ってくるなんでとんでもない」と言い張っていたそうだが、実際にホームヘルパーさんから足湯ケアなどを受けるうちに、すっかり気に入ってしまったという。
慣れ親しんだ自宅での生活は、病院とは大違い。病院では患者そのものだった母が、自宅ではよちよち歩いて台所に行き、皿を洗い始めたり、福祉用具専門相談員がトイレのドアを外し、手すりを取り付け、高さを調節すると、自分でトイレが使えるようになった。病院でオムツをつけていたときとは全く見違えるようになったそうだ。
著者曰く、「あと一か月」が「四年半」にも伸びたのは、「なじんだ家」の力ではないかとのこと。
著者の母を支えたのは、様々な「プロフェッショナル」と「商店街のみなさん」。
専門職として、かかりつけ医、ホームヘルパー、訪問看護師、ケアマネジャー、歯科医師・歯科衛生士、かかりつけ薬剤師、リンパドレナージの専門家など大勢のスタッフがケアを担ったが、基本的に介護保険の範囲内で対応できたという。
そして、母が長年暮らした商店街のみなさん(美容院、和食、中華、イタリアン、フレンチ、鮨、さぬきうどん、花屋、ブティック等)も、折にふれて、生活の支えになったそうだ。
「都会でも地域包括ケアが、しかも、介護保険の範囲で、デンマークなみに自宅で人生を全うすることが可能なことを、母は証明してくれたような気がします」
著者が考える「社会保障にとって大切なこと=誇り・味方・居場所」が確信となった経験だったに違いない。
JOJO(厚生労働省)