「ロシア国民楽派」のうねり、グリンカから「ロシア5人組」へ
グリンカが火をつけた「ロシア国民楽派」の火は、「ロシア5人組」に受け継がれます。ボロディン、ムソルグスキー、バラキレフ、キュイ、リムスキー=コルサコフ、彼らの活躍がロシア音楽をクラシック音楽にとって欠かせないものにしてゆきます。あまりロシア的なものにこだわらなかった同時代のチャイコフスキーと共に、彼らの活躍のおかげでロシア音楽の最初の黄金時代となりました。
5人組は「グリンカの精神を受け継ぐ」こと標榜していました。メンバーの一人、バラキレフは、グリンカの残した哀愁のある歌曲「ひばり」をピアノの独奏曲に編曲することを思い立ちます。それは単なる「音の移し替え」ではなく、最初はオリジナルの歌曲に忠実ですが、途中からヴィルトオーゾなテクニックが必要とされる、ダイナミックなパッセージがあらわれ、最後は、また悲しげに弱音で終わる・・という、ピアノソロに適した思い切った追加アレンジが行われています。
ロシアの哀愁と、ロシア・ピアニズムと言われる華麗なる技巧を両方披露することが出来るこの曲は、現代のピアニストのアンコールレパートリーとして、人気の曲になっています。
グリンカが曲をつけた「ひばり」のもともとの詩は、誰かの歌う「歌」が主人公で、ひばりの鳴き声は単なるアクセントなのですが、バラキレフ編曲のピアノ曲は、あたかも旋律が、ロシアの遅い春に飛び交うひばりの啼き声に聴こえ、哀愁がしみじみと伝わってきます。
グリンカがきっかけを作り、5人組が継承した、「ロシア音楽の春」を、バラキレフとの合作ともいうべきこの曲、「ひばり」は告げているのかもしれません。
本田聖嗣