先達から学ぶ技術と信念
大村先生は、生前、鳴門教育大学に諸資料を寄贈されたという。同大学付属図書館はその膨大な資料を整理・保存し、「大村はま文庫」として複製を閲覧に供している。同じ教材を二度使うことがなかったという先生の資料だけに、門外漢ながら興味をそそられる。学外者も利用できると聞くが、国語教育を志す者の聖地となっているのだろうか。
また読了して振り返ると、仕事を突き詰めると正しい信念が唯一の指針となる、と感じる。そうした信念は、口伝によってしか継承されないのかも知れない。一教師の講演録が出版され、ついには文庫本化された事実がそのことを物語る。
思えば、霞が関の諸先輩方にはよき御指導を頂いてきた。昨今、若手に遠慮して「説教や昔話はしない」などと恰好をつける風潮があるが、経験知や覚悟の伝承が途切れることを、評者は危惧している。
新学期が始まる。晴れて御入学の御子弟をお持ちの読者もあろう。子育て中の親として、わが子の恩師の丁寧な御指導を思い出し、本書がひとつの感興をもたらしてくれたことも付け加えたい。