東日本大震災から5年がたつ。政府に関係するものとして、「第二の敗戦」といわれることはとても苦く重い。一方、ジャーナリズムでも、大震災とそれに続く東京電力福島第一原発事故は、これまでの報道のあり方について、大きな問題を提起したはずだった。
「世界報道自由度ランキング」日本は11位から5年後、61位に
国境なき記者団が発表する「世界報道自由度ランキング」で、2015年に日本がその順位を大きく落とし、61位になった。2010年の11位を最高に、2011年の大震災と原発事故の後、2011年では22位、2012年53位、2014年59位に落ちたのだ。それに関して、日本大学大学院の福田充教授は、新聞学研究科のホームページ掲載「『報道の自由度』ランキング、日本は何故61位に後退したのか?」(2015年7月15日付)で、原発事故報道におけるメディア体制の閉鎖性や記者クラブの外国記者等に対する排除性が大きいと分析する。
「戦争やテロリズムの問題と同様に、大震災や原発事故などの危機が発生したときにも、その情報源が政府に集中することにより、『発表ジャーナリズム』という問題が発生する。政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する姿勢である。また、同様に戦場や被災地など危険な地域に自社の記者を派遣しないで、フリー・ジャーナリストに依存する『コンプライアンス・ジャーナリズム』の問題も重要である。」という。
消費税の軽減税率は「世界の常識」か
このような状況では、「メディア・リテラシー」が重要だ。全国紙記者を経てミシガン州立大学でマスメディア学の博士号を取得した著者の「メディア・リテラシー~媒体と情報(コンテント)の構造学」(井上泰治著 日本評論社 2004年)は、この出発点となる恰好の1冊だ。「メディアの情報を正しく判断し読み解き(入り込んでいる偏向を解読する)、振り回されることなく(影響を理解し自己コントロールする)、役立てる能力」のことだ。また、「第Ⅱ章 メディアの特質と産業構造」で、「世界でも例のない新聞とテレビの2大メディアの系列という日本独自のメディア構図」が、コンテントにも影響を与えていると指摘する。消費税の軽減税率が「世界の常識」のように報道されて、軽減税率に批判的な有識者の見解があまり報道されなかったことも頷ける。「第Ⅳ章 コンテントの偏向要因」で、ルーティン(日常の取材や制作作業)の根本となる、ニュースの程度を決める「ニュース価値」の要素を、「顕著さ・重要性」、「関心ごと(人間ドラマ)」、「対立・抗争」、「異常性」、「タイムリー」、「地理的近さ」とし、ニュース価値を高めようとして、「偏向」が起きる危険性を巧みに分析する。この分野の他の著作では、菅谷明子氏の「メディア・リテラシー―世界の現場から」(岩波新書 2000年8月)は、いまや「現代の古典」と思う。
最近でいえば、たとえば、東芝問題は、日々の報道では、全容の理解は難しい。「東芝 不正会計 底なしの闇」(今沢真著 毎日新聞社出版 2016年1月)は、毎日新聞「経済プレミア」編集長が、練達の知見を活かし、「発表ジャーナリズム」とは一味違ったものとなった。また、シリア人を妻とした経験も踏まえた、フリー・ジャーナリスト黒井文太郎氏の新著「イスラム国『世界同時テロ』」 (ベスト新書 2016年3月)は、イスラム国について、とても切れ味のよい分析を示す。黒井氏は、テロを生んだ戦犯は、シリアのアサド(主犯)、ロシアのプーチン(共犯)、米国のオバマ(何もしなかった罪)の3人だと、誰憚ることなく指摘し、日本人の、テロの「傍観者」という立場の虚構を的確に射抜いている。
経済官庁(総務課長級 出向中)AK