ヴォカリーズだったために国境を越え世界的ヒットに...ラフマニノフ「ヴォカリーズ」

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さまざまな編曲が登場し人気爆発

   20世紀に作曲された曲ではあるのですが、もともと、ラフマニノフは「遅れてきたロマン派」と形容されるぐらいロマンチックな作風を持っていましたし、かつ、この曲は、ラフマニノフがグレゴリオ聖歌や、バロック時代のアリアのスタイルを参考にして、いわばそれらへのオマージュという形で作ったと思われるために、ロシアの哀愁と、古典音楽の端正さを持つ非常に甘美な曲に仕上がっています。ラフマニノフの存命中からこの曲は人気を博し、実に様々な編曲が登場しています。メロディの部分を歌ではなく、器楽、たとえばヴァイオリンやチェロ、フルートやトランペットといった弦楽器や管楽器が演奏し、それをピアノが伴奏するものがたくさんあり、一方で、メロディも含めてピアノだけで弾いてしまう独奏ヴァージョンも何人ものピアニストによって作られています。伴奏の部分も、ラフマニノフのオリジナル以外に他人によって管弦楽化されたものも存在します。現在では原曲の歌+ピアノより、異なる組み合わせの編曲版のほうが演奏機会が多いぐらいです。

   それだけ人気の爆発度合いがすごかった...といってもいいのですが、「ヴォカリーズ」だったことがその一因かもしれません。ロシア語、という他国人には難しい言語を使っておらず、「アー」や「オー」だけで歌われるので、誰にとっても理解しやすかったのです。音楽は国境を超える、とよく言いますが、この曲集の場合、「音楽は国境を超える、言葉は超えられなかった」...と多少シニカルに解釈してもよいのです。全14曲中、世界で愛されているのは、この「ヴォカリーズ」のみなのです。

    パラドックス的ですが、この曲は、言葉がないから、余計なことを考えずに、音楽が直接ハートに届くように聴こえるのです。歌の無い歌が、世界を感動させたのです。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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