ピアノのための「無言歌」
メンデルスゾーンは、短い生涯の間に、演奏家や指揮者として活躍するだけでなく、たくさんの作品も作曲しましたが、中でもヒットしたのが、ピアノのための「無言歌」という作品たちです。メンデルスゾーンの生涯にわたって書き続けられ、6曲ずつにまとめられ、第1集から第8集まであり、全48曲の作品たちです。もともと、第1集は、同じく優秀な音楽家だった姉のファニーのために書かれたといわれており、その姉が、「歌のようにメロディアスな曲だが、器楽のソロの曲」ということで、「言葉の無い歌曲=無言歌」と名付けたといわれています。
このような、小曲で、親しみやすいメロディーを持ち、またプロでなくてもある程度弾ける難しくない作品たちは、アマチュア音楽愛好家たちに大好評で迎えられ、メンデルスゾーンの代表曲となったのです。
曲に表題があると、理解しやすく、さらに人気が出るものですが、実は、メンデルスゾーン自身が題名をつけたのは48曲中たった5曲しかありません。彼は、言葉によって曲のイメージが固定化されるのを嫌ったようです。文字通り「無言歌」にしたかったのかもしれません。
今日の曲、第5巻の第6曲「春の歌」も彼の命名ではありませんが、楽譜の冒頭に、演奏への指示として「春の歌のように」という指示があるので、通称で「春の歌」と呼ばれています。人々の、春への憧れをそのまま曲にしたような、エレガントなメロディと、それを支える可憐なアルペジオが心地よく、無言歌集の中でも最も有名な曲となり、ピアノ独奏だけでなく、独奏楽器とピアノ伴奏というような、さまざまな形の編曲でも親しまれています。
本田聖嗣