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介護人材の不足が最も深刻―准看護師と介護福祉士の資格の統合―

   失業率が3%台と史上最低水準となっている今日、介護分野の有効求人倍率は2倍を大きく超えている。しかも、介護人材の不足は好況時に限った話ではなく、不況時といえども介護分野の有効求人倍率が1倍を下回ったことは未だかつてない。

   介護現場実習を終えた学生の一部には、「実習では高齢者に勇気づけられ、福祉の魅力を非常に再認識させられた。しかし、同時に実習先の職員に話を聞き、将来的な展望や昇給面の現実を垣間見ることで、自分が30歳を過ぎて、結婚・子育てを考えると不安だ」として、福祉系への就職を躊躇する者が見られるという。

   介護福祉士の有資格者(約109万人)のうち実際の介護現場で働いているのは約6割(約63万人)。その基礎的資格である介護職員初任者研修終了者(約380万人)のうち、現場で従事している者は1割未満(約30万人)にすぎない。つまり、多くが潜在介護士となってしまっているのだ。

   こうした介護人材の不足問題に関して、著者は、大幅な賃金水準の改善とともに、「准看護師」を廃止して、介護福祉士と統合した「(仮名)療養介護福祉士」という新たな資格の創設を提案している。「胃ろう」「喀痰吸引」などの医療行為も行える介護専門職を制度化することによって、現場で不足している医療ニーズへの対応が格段に向上するほか、給与面でも、准看護師並みになれば、年収ベースで約70万円~100万円のアップが見込める。これにより、目途の立たない介護スタッフの待遇改善問題も前進するというのだ。

   興味深い提案だと思う。医療や福祉の職種は、この30年余りの間に次々と制度化された。こうした動きは、それぞれの技術の専門性を尊重する観点から生じたものだが、同時に、細分化が進みすぎた感もある。一人の人間の40年近くに及ぶ職業人生という視点からみると、同一資格で職業人生を全うするのも一つの生き方だが、医療・介護の領域の中で、隣接する職種の仕事へと転じていく選択肢も意義あるものと思う。

   著者が提案する資格の統合という方法以外にも、一定の実務経験を有する者が隣接領域の資格を短期間の実習で取得可能とするという方法もある(従来、理容師と美容師はそれぞれの養成校に通わないと他方の資格取得ができなかったが、近々、実習を受けることで資格取得が可能となる見込み)。

   介護分野に限らず、医療・福祉の分野では人材不足が深刻である。あらゆる政策を組み合わせ、早急に、多数の「潜在○○士」が生じている状況は無くしていかなければならないと思う。

   加えて、本書では触れられていないが、今後、少子化により生産年齢人口が急減していくことを考えると、高齢化のピーク(2040年頃)を視野に入れて、介護現場が介護ロボットなどイノベーションを通じて省力化が図られ、一新されるような状況をつくり出していかなくてはならないであろう。

   25年前、私達の生活には、スマートフォンはおろか、パソコンも普及していなかった。しかし、今ではこれらを日常的に使いこなしている。介護現場でもタブレットをはじめ様々なICTが活用されている(そもそも25年前、介護保険も無かった!)。

    今から25年後、きっと現在とは全く違う介護現場となっているに違いない。そんな将来を見据えて、中長期の視点から、柔軟な発想で、解決策を考えていかなければならないと思う。

JOJO(厚生労働省)

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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