牛乳は、3大栄養素をはじめミネラルやビタミンをバランスよく含む。日本で飲用牛乳が一般に生産・販売されるようになったのは明治時代に入ってから。当時は「病人用の薬」と宣伝され、値段もずっと高かった。いまや牛乳はペットボトルの水よりも安い値段で売られることもあるが、流通しているのは国産だけだ。また学校給食用は地産地消のところが多い。
2015年10月に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が大枠合意した。酪農業に与えるインパクトは非常に大きいと政府は試算しており、全国の酪農業者に大きな影響を与えると見られることから、業界団体からは政府に対して対策を求める声があがっている。
TPP発効までは1、2年の猶予がある。政府は「攻めの農業」への切り替えを掲げ、酪農業界もその例外ではない。生き残りのための第一歩はマーケットニーズの把握だ。消費者は牛乳に何を求めているのか――。ネオマーケティングが16年2月17日に発表した「TPPと食品購入に関する生活者意識調査」の結果によると、回答者の69.1%がTPP合意を評価すると答えた一方で、94.3%が「国産の牛乳を買いたい」と思っていることが分かった。
「TPP合意は評価、でも食の安心・安全は気になる」
この調査は16年1月8日から13日までの6日間、全国の15歳~69歳の男女1200人を対象にウェブアンケート方式で実施された。
「TPPについて関心がありますか?」という問いに対しては、全体の53.4%が「ある」と答えた。男女別では男性が58.7%、女性が48.2%だった。また「TPPの大筋合意内容(農林水産分野)に対する考え」については、全体の69.1%が「評価する」と回答した。性別では男性の73.6%が「評価する」で、女性は63.7%だった。
「評価しない」と答えた人に理由を尋ねたところ、全体で最も多かったのは「国内の農林水産業に悪影響を与えると思うから」「食品の安心・安全が脅かされると思うから」がどちらも64.6%、「食料自給率が低下すると思うから」が63.6%、「今後の食料の安定供給に不安があると思うから」が38.9%だった。
回答者全員に「あなたがTPPの大筋合意内容(農林水産分野)」に関して不安に思うことは?」と質問したところ、1番多かった回答は「食品の安心・安全が脅かされることによる食品の安心・安全への不安」(49.2%)で、次いで「国内の農林水産業に与える影響への不安」(41.8%)、「食料自給率の低下」(40.9%)、「特に不安はない」(18.2%)の順となった。
「牛乳は国産でないと」の声は94.3%も
本調査では「食材や食料品が国産であることに対する意識」についても聞いた。「まあ意識している」が全体の44.4%、「とても意識している」が22.0%、「意識しているときもある」が21.1%、「ほとんど意識していない」が8.2%、「まったく意識していない」が4.3%だった。
そして「国産を買いたいと思う=重視する食材は?」という問いに対して、「牛乳」は94.3%の得票率で、「穀類」の93.7%を抑えて1位となった。以下、「鶏卵」が93.0%、「野菜類」が91.3%、「きのこ類」が90.3%と続く。
酪農家が毎年4%ずつ減っている衝撃
実はTPPが発効する・しないにかかわらず、酪農家を取り巻く環境は年々厳しくなっている。卵と並ぶ物価の優等生と言われる一方、価格形成は流通がリードしており、牧場で働く人たちの立場は強くない。牛乳生産費の約半分を占めるのは飼料費で、主原料のトウモロコシの国際価格はこの約10年で約2.5倍も上昇した。高齢化や後継者不足も重なり、農林水産省によれば、日本の酪農家は毎年4%ずつ減っている。
全国各地では国産牛乳を守ろうとさまざまな努力がされており、中央酪農会議が発行する「JDCニュースレター」Vol.6には、東北有数の酪農地帯である岩手県の取り組みが紹介されている。「ルーデンス ビューティフルホープ モゥモゥファーム」(八幡平市)の梶本希さん(34)は、25歳で新規就農した若き酪農家だ。生乳の生産だけでなく、自家製のアイスクリームやジェラートを製造して、収益を上げている。家族経営で休む暇もないイメージが強い牧場経営だが、酪農ヘルパーを活用して月に数回休みをとっているという。
農業は食料生産の側面だけでなく、地域の自然環境を循環・保全する重要な役割を担っている。主な飼料を輸入に頼っていることは前述の通りだが、国内自給率を100%に近づける取り組みが始まっている。新方針も消費者の理解や支持なくしては進まないが、その行方はどうなるだろうか――。