「言霊信仰」に囚われぬ議論を 敢えて「戦前に戻ること」で「少子化」問題の本質を知る

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   長年役所で仕事をしていると、言語そのものに霊力が宿っていて、ある言葉を口に出すとその内容が実現してしまうという、「言霊信仰」が広く浸透し、「戦前に戻るのか」という禁忌(タブー)にふれるとして、公の場での率直な議論が憚られる空気の厳然たる存在に気づかされる。その1つが、人口政策についてであったことは間違いない。

    この問題に果敢に取り組んだ話題の1冊が、「日本の少子化 百年の迷走―人口をめぐる『静かなる戦争』」(河合雅司著 新潮社 2015年12月)だ。

  • 日本の少子化 百年の迷走―人口をめぐる『静かなる戦争』
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「日本人自身が"絶滅危惧種"」

   本書の冒頭で、長くこの問題に真摯に取り組んできた河合氏(産経新聞論説委員)は、「ひとたび数を減らした『種』を繁殖させることがいかに困難な作業であるか、特別天然記念物のトキをみれば明らかだ。国を挙げての懸命な取り組みにもかかわらず苦労の連続である。だが、われわれにはトキを心配している余裕はない。日本人自身が"絶滅危惧種"だからだ。政府や地方自治体は男女の出会いの場を提供したり、子育て支援策を展開したりしているが、その効果ははかばかしくない。」という。そして、現在の深刻な日本の少子化の根本原因を探ることが本書の目的とし、そこには、「人口戦」(①相手国の人口増加を停止し、殲滅させること、②相手国の国民の活力を弱め、質的悪化を企てること)が大きく影響していることを、丹念な日本の100年の歴史の検証を通じて、我々に明示した。

   戦後の「産児制限」容認により、大変な数の人工中絶が行われ、ベビーブームを突如終焉させ、いびつな人口構成を生み出した。これが当時の日本における最高権力であったGHQによる「人災」であったことが、第3章の「敗戦後も続いていた"日米戦争"」で詳細に述べられている。その後の章は、この転換がいつのまにか日本に定着していく経過が検証される。河合氏は、日本のとるべき途について、「まず着手すべきは70年近く前にGHQが仕掛けた「人口戦」の呪縛から抜け出すべく価値観を改めることだ。家族を築く楽しさ、子孫をつないでいく素晴らしさを今一度、認識することからやり直すことである。もはや日本には多くの時間が残されているわけではない。」と警鐘を鳴らす。そして、ようやく「地方創生」という名で動き出した人口減少対策の歴史的意義を高く評価する。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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