■『リーダーのための「人を見抜く」力―「人を見る目」が人材を伸ばし、組織を強くする』(野村克也著)
毎年年末を迎えると、プロ野球選手の契約更改がニュースで報じられる。華々しい金額の契約が話題になる。昨年で言えば、日本ハムの大谷や阪神の藤浪、メジャーなら一時期ドジャーズからの高額のオファーが報じられた岩隈というところか。他方、現役引退のニュースも報じられる。既にシーズン中に引退を表明したかつての主力選手もいれば、いわゆる戦力外通告をされて実績を残せないまま球界を去る選手もいる。戦力外となった選手の中には「トライアウト」を受ける選手もいて、最近はテレビでもこうした選手の人間ドラマと併せて放送されている。番組には、かつて「鳴り物入り」で球界入りした選手の名前も出てくる。その選手の甲子園での活躍を思い出したり、「この選手だったら○○球団ならレギュラーを獲れるだろう」と勝手なファン心理で構想したことを思い出したりもする。
そうすると、この選手は何が足りなかったのか? とか、(これまた勝手に)思いを巡らしたりするのだが(当人には失礼な話かもしれないが、「ファン心理」ということでお許し願いたい。)、今回紹介するのはそんな中で手にした一冊である。
求める人材、伸びしろのある人材が持つ"共通点"
本書は、名捕手、強打者にして名将と言われた著者の独自の人間観察眼を自ら明らかにするものであり、選手の人間性や将来性、賢明さなど、著者がどこに着眼し、どうやってその選手の人間としての本質を見破ってきたのかが描かれている。具体的な部分については本書をお読みいただければと思うが、それぞれの選手に「感じる力」があるか(「鈍感は悪」、感じる力がないと「人は伸びていかない」とする著者に大いに同感)、「根拠をもって行動している人間か」、「責任感のある人間かどうか」(「責任感のないやつは、なにごとにおいても成長しない」とする点も同感)、著者が個々の選手をどう観察し、見抜いてきたのか。自身のことで言えば、所属官庁の新規職員の採用活動の一環で学生の面接をすることもあるのだが、プロ野球の世界に限らず、求める人材、伸びしろのある人材というのは共通する点が多くあることをはじめ、一般社会でも大いに参考になる内容ばかりである。
素質を"開花"させるには
本書の半分は著者が監督として選手をどう見極めてきたかについて描かれているが、もう半分は(極端な言い方をすれば)こうした能力に欠ける選手をどう指導してきたかについて描かれている。このコラムの読者の方々の職場にも共通するところはあるかと思うが、どこの職場でも「頭を使ってプレーしているタイプ」と「素質だけで何も考えていないタイプ」という分類はできると思う。自身の経験で言っても、前者の場合、ミスしても怒らないほうが良い。前者のタイプは、何でミスしたのか、何が悪かったのか、自分で考えるだろうし、そうしたプロセスが、同様のミスをなくすだけでなく、本人の後々の成長につながるからである。他方、後者はどうだろうか。ここでは実名は伏せるが、「素質だけで漫然と勝負」していたあるホームランバッターに対して野村監督が「野球とは何か?」「バッティングとは何か?」といった根源的な問を投げかけるやりとりが描かれている。現にこのバッターはその後ホームラン王のタイトルを獲得するのだが、どこの職場でも、指導的な立場にある人間は、こうした本質的な質問を投げかけ、本人に気づかせる作業が必要なのだろう。
読書が「監督としての基礎固めだった」
本書は、こうして日々の仕事に対する示唆に富むものであるが、随所に懐かしい選手の名前が出てくる(例えば巨人の淡口、ヤクルトの池山など)ほか、メジャーリーグで活躍する田中、岩隈も出てくるので、熱心なプロ野球ファンでなくても抵抗なく読めるものだと思う。また、本書では、著者と読書の向き合いについても言及がある。著者は現役引退後の野球評論家になってから、政治、経済、哲学、小説など、ジャンルにこだわらずさまざまな本を読みあさり、これが「私の監督としての基礎固めだった」と振り返る。読書によってそれまで自分が知らない新たな知識が獲得され、それが自身の専門をより深めることになることもある。今年はどんな本と出会えるのか、いい出会いがあればまたこのコラムで紹介したいと思う。
銀ベイビー 経済官庁 Ⅰ種