2016年も東京では超大型展覧会が目白押しだ。年明け早々の1月16日からは「ボッティチェリ展」(東京都美術館)と「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」(江戸東京博物展)が激突する。
ともにイタリア・ルネッサンスを代表する世紀の大巨匠。目玉はいずれも「日本初公開」の有名な聖母の作品だ。ガチンコ対決を制するのはどちらか。
イタリア政府が全面協力
サンドロ・ボッティチェリ(1445?~1510)は初期ルネッサンスの代表的な画家。メディチ家の庇護下で多数の宗教画などの傑作を残した。
作品の多くは板に描かれており、繊細で扱いが難しい。移動することで思わぬトラブルも起きかねない。ということでなかなか作品の来日が難しい画家の一人だが、今回は日本とイタリアの国交樹立150周年記念ということでイタリア政府が全面的に協力。フィレンツェを中心に世界各地から20点余りが東京に集まることになった。
目玉作品は、彼が数多く描いた聖母子像の中でも最高傑作といわれる「聖母子(書物の聖母)」だ。円熟期の作品で、憂いを含んだかのような聖母の表情が謎めいていて余韻に富んでいる。
また、日本国内にある唯一のボッティチェリ作品「美しきシモネッタの肖像」も久しぶりに公開される。丸紅が1960年代にアートビジネスに参入していたころに入手した作品だ。ふだんは丸紅の役員室に飾られているそうだ。
このほかボッティチェリと縁の深い同時代の画家の作品なども合わせて約75点が公開される。「日本初の大回顧展」とされており、特に専門的な美術関係者の間で注目を集めている。
「万能の天才」に迫る
一方の「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」。こちらはボッティチェリとほぼ同時期に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)の「万能の天才」ぶりに迫る特別展だ。目玉は円熟期の油彩画「糸巻きの聖母」。もちろん日本初公開だ。ほかに素描7点、直筆ノート、弟子らの作品70点などで構成している。
ダ・ヴィンチの現存絵画は15点ほどといわれ、「糸巻きの聖母」はその中の貴重な1点。英国の貴族が代々所蔵しており、英国外での展示は実に77年ぶりだという。この展覧会もやはり、日本とイタリアの国交樹立150周年記念の特別展となっている。
ダ・ヴィンチといえば「モナリザ」、ボッティチェリなら「春」や「ヴィーナスの誕生」があまりにも有名だ。残念ながらこれらの超弩級の名作はもはや日本に来ることはないといわれる。美術関係者によると、事実上、永久に「持ち出し禁止」。二人の場合、それらに準ずる作品でさえも借りるのは簡単ではない。
2007年に、ダ・ヴィンチの傑作「受胎告知」(ウフィツィ美術館蔵)が東京国立博物館の「ダ・ヴィンチ展」で日本初公開されたことがあった。「異例中の異例」といわれた。そのときイタリアでは国会議員が貸し出しを強く問題視、来日直前まで議論になった。
それだけに今回、関係者の努力で「書物の聖母」を中心とするボッティチェリの傑作群やダ・ヴィンチの「糸巻きの聖母」が展示されることになったのは画期的な出来事だ。またとない意義深い機会といえる。約500年前のイタリアで、たまたま同時期に活躍した二人の天才――実際に会場に足を運んで、自分の眼でガチンコ対決の醍醐味を味わいたいものだ。