通称「ワルトシュタイン」/愛称「夜明け」...ベートーヴェン中期傑作ピアノソナタ第21番が2つの"別名"を持つ理由

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黎明期のピアノの可能性を開拓、難聴のハンデを克服

   ベートーヴェンが、難聴の症状が出て悩み、それを乗り越えて新たなる創作の意欲を燃やしていた1804年ごろ、再びワルトシュタイン伯は、ベートーヴェンに贈り物をします。それは、エラールというフランスの製作者の手によるピアノでした。大きく改良されたピアノを手にしたベートーヴェンは、それまでのピアノでは不可能であった連打や、広い音域を活かした曲を書きあげ、ワルトシュタイン伯に献呈します。

   それは、ピアノという楽器の黎明期に活躍したベートーヴェンの新しい楽器の性能を引き出してゆく試みであり、新しい音楽の可能性をピアノ音楽にもたらす曲でした。ベートーヴェン自身にとっても、この曲を書きあげた時期を境に、自らの難聴を人前で隠すことがなくなります。耳が聞こえなくても、内なる音楽を作曲し、その作品に絶対の自信を持ち始めたからであり、この時期の作品は「中期の傑作の森」と呼ばれています。

   そして、通常「ワルトシュタイン・ソナタ」と呼ばれることの多いこの曲は、最終第3楽章のパッセージが、まばゆい太陽が朝上ってゆく様子にたとえられて、「オーロール(暁の)・ソナタ」とフランスやロシアで呼ばれています。難聴という音楽家にとって致命的な病気を乗り越えたベートーヴェンにとっても、ピアノ音楽にとってもこの曲は「暁」という名がふさわしいといえましょう。

    初日の出などを拝み、一年の計画を立てることの多い今の時期に、ぜひ、聞いてみてください。希望とエネルギーがわいてきます。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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