第154回芥川龍之介賞(平成27年下半期)は2016年1月19日に発表される。半年前の前回(第153回)は又吉直樹氏の『火花』が受賞、240万部を超える驚異的なベストセラーとなった。それだけに「第二の又吉」が出るか、注目が集まる。
今回はすでに6氏の作品が候補作として発表されている。又吉氏のような「芸人」はいないが、演劇人やエリートビジネスマンなど多彩な顔ぶれがそろっている。
新作で再チャレンジ
最も闘志をかきたてているのは、上田岳弘氏かもしれない。昨年5月、上田氏の『私の恋人』が又吉氏の『火花』と三島由紀賞を争い、又吉氏を退けて受賞しているからだ。ところが7月に『火花』は芥川賞を受賞、『私の恋人』をはるかに凌駕する人気となった。
上田氏は1979年兵庫県明石市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、法人向けソリューションメーカーの立ち上げに参画し、現在同社で役員を務める。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞して作家デビューした。『私の恋人』は単行本になったあと、大手マスコミ各紙の書評ではいずれも高い評価だった。それだけに忸怩たる思いがありそうだ。今回は新作『異郷の友人』で芥川賞を狙う。
やはり「因縁」があるのは、滝口悠生氏。昨年の三島賞、芥川賞でも同氏の二つの作品がそれぞれ候補に上り、又吉氏の『火花』と争ったものの、いずれも敗退しているからだ。1982年生まれの気鋭作家。近年、新潮新人賞や野間文芸新人賞を次々と受賞し、勢いに乗る。今回は『死んでいない者』で再度挑戦だ。新作のタイトルには、又吉氏に二度敗れたものの、リベンジを誓う筆者の決意が感じられる。
マルチな才能で勝負
「芸人」ではないが、作者の知名度という点では『異類婚姻譚(いるいこんいんたん)』の本谷有希子氏が抜きんでているかもしれない。1979年石川県生まれ。2000年から「劇団、本谷有希子」を主宰し、作・演出を手掛ける。07年『遭難、』で第10回鶴屋南北戯曲賞を受賞。09年『幸せ最高ありがとうマジで!』で第53回岸田國士戯曲賞を受賞。11年小説『ぬるい毒』で第33回野間文芸新人賞、13年『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞、14年『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞を受賞と、豊富な受賞歴を誇る。
作家だけでなく、劇作家、演出家、女優、声優という肩書もあり、ラジオ番組「本谷有希子のオールナイトニッポン」のパーソナリティを務めていたこともある。マルチな才能の持ち主で今回で4回目の芥川賞候補だ。受賞すれば「話題の人」にりそうだ。
変わり種では『シェア』の加藤秀行氏がいる。1983年鳥取県生まれ。東大経済学部卒業後、戦略コンサルティングファームに勤務。2015年『サバイブ』で第120回文學界新人賞を受賞した。上田氏と同じく、ビジネスマンと作家の二刀流の人だ。
このほか、『家へ』の石田千氏、『ホモサピエンスの瞬間』の松波太郎氏がノミネートされている。ともに3度目の芥川賞候補だけに、「今度こそ」の思いだろう。