東日本大震災以降、太陽光発電と電気自動車など組み合わせた「スマートハウス」の普及が進むなか、2016年4月に予定されている一般家庭向けの「電力自由化」がそれを後押しすることになりそうだ。
これまでは東京電力など地域の電力会社から電気を買うのが一般的だったが、今後は利用者が「どの会社から買うか」を選べるようになる。すでに様々な業種の会社が参入を表明しており、料金プランもそれぞれに特徴的だ。利用者が実際に電力会社を選ぶにあたって気を付けたいポイントをまとめた。
「新電力」では携帯電話やケーブルテレビとの「セット割」も
小売り電気事業者の変更を希望する利用者の事前受付は16年1月に始まる。切り替え手続きは簡単で無料。新たな事業者に連絡すれば、利用者から、従来の電力会社に連絡する必要はない。旧型の機械式メーターが取り付けられていた場合は、電力会社が「スマートメーター」と呼ばれる新型に取り替えてくれる。どの会社も引き続き電力会社の送電設備を使うため、停電などのリスクが高まることはない。仮に新電力会社の発電設備にトラブルが発生したとしても、東電などから電力を融通してもらうため、やはり新電力に切り替えたことでリスクが高くなることはない。
すでにガス会社、石油系、通信系、地域を越えた電力会社系など様々な業種が名乗りを挙げており、15年12月21日時点で89社が資源エネルギー庁に登録されている。それ以外に約100社が申請中だ。各社は独自の切り口で顧客獲得を狙う。例えばKDDIは「auでんき」と銘打って、携帯電話とのセット割を予定している。東急電鉄では、定期券とセット販売が予定されているほか、東急カードで決済するとポイントがつく。
すでに具体的な料金プランも発表されはじめている。現在の電気料金は「3段階料金制」と呼ばれる制度で、使用量が多いほど単価が上がる仕組みだ。そのため、新たな事業者に切り替えた場合、使用量が多い人ほど割安になりやすい。例えば東京ガスが12月24日に発表したプランでは、基本料金は東電よりも100円程度高いが、ガスとセットで契約すると250円安くなる。ガスとのセット契約の場合、月に400キロワット程度使う場合、東電よりも年間4000~5000円程度安くなるという。この「月に400キロワット」という数字は、戸建て住宅に住む3人家族の平均的な電気使用量だ。電気をあまり使わない単身世帯の場合は、かえって割高になる可能性もある。1月4日からはウェブサイト上で具体的な料金シミュレーションもできるようになる。
大阪ガスが12月25日に発表したプランでは、4人家族で月に370キロワットを使用する前提で試算。この場合、関西電力と比べて年間に約6200円安くなるという。同じガス会社系でも、料金の設定はさまざまだということが分かる。
消費者は「企業の信頼性」「お得なプラン」「安定供給」を重視
では、消費者は何を基準に新電力会社を選べばよいのだろうか。東京ガスが2015年11月に行った調査では、関東の1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)の1030人に、意見を聞いている。その結果によると、「信頼できる企業である」が87.9%で最も多く、「お得な料金プランがある」(86.1%)、「電気を安定して供給できそうな企業である」(85.0%)などが続いた。
「かんたん解説!! 1時間でわかる電力自由化 入門」などの著書がある、エネルギー自由化推進事業などに取り組むRAUL(ラウル)株式会社の江田健二社長は、
「『でんき家計簿』といったサービスで現時点での利用状況を把握した上でプランを選ぶのが大事」
と断りながら、
「電気の『つくられ方』に着目するのもひとつの考え方」
ともアドバイスする。
新規参入業者による「新電力」では、発電所の場所や供給地域を明示すれば「地産地消」と表現することも認めらる見通しで、固定価格買い取り制度(FIT)を使った再生エネルギーは「FIT電気(太陽光)」などと表示されることになりそうだ。「割高だが有機農法で育った野菜がいい」という消費者がいるのと同様に、「割高だが再生可能エネルギーで発電された電気を使いたい」といった選択も可能になるわけだ。