生まれた「都市伝説」
「交響曲九番の呪い」という物語も、後世の作曲家を悩ませます。つまり、ベートーヴェンが、9曲の交響曲を残して亡くなったので、作曲家は、交響曲第9番を書いたら命を落す―というほとんど「都市伝説」的なお話です。実際に、マーラーは、交響曲第9番を完成した後、次の曲を交響曲第10番とせず、「大地の歌」というタイトルにして完成させていますが、これはこのことを気にしていたからだといわれています。「大地の歌」は無事完成しましたが、交響曲第10番をその後に作曲しはじめると、マーラーは亡くなってしまったのです!他にも、ドヴォルザークやグラズノフは9曲を残して亡くなり、ブルックナーも第9番を書いている途中に亡くなりました...。
まあ、この話は、誇張や、もともと大作である交響曲は9曲ぐらい書いたらちょうど寿命と重なる・・という自然的な理由もあるので、眉唾ですが、周囲の人が「第九の呪い」を意識してしまうぐらい、ベートーヴェンの作品の影響は大きかったといえましょう。
シラーの人類の兄弟愛をうたった詩を歌詞に、高らかに理想を歌い上げた「第九」は、ヨーロッパ共同体の理念とも重なる、ということで、EUの歌にも選出されました。EUの式典があるたびに、この曲は演奏されます。しかし、現在のギリシャ債務問題、シリア難民問題に揺れ、各国の思惑が交錯し、残念ながら理想にひびが入りそうになっているEUの状態を見るにつけ、ナポレオン戦争によってヨーロッパが揺れ動く中で、第九を完成させたベートーヴェンの精神力が、また再び輝きを取り戻す状態がやってきてほしいなと思っております。
本田聖嗣