後世の作曲家たちを苦悩させた"名曲"
ベートーヴェンがこの曲でいろいろな作曲上のブレイクスルーをしたおかげで、後世の作曲家たちは、さまざまな可能性を手にしたのです。と同時に、ベートーヴェンがこの曲を作ってしまったために、彼らは苦悩もすることになります。
古典派のハイドンやモーツアルトが確立した「オーケストラによるソナタ形式の作品」である交響曲はタイトルなどを持たない絶対音楽でしたが、(のちに愛称が他人によってつけられることはありましたが)、ベートーヴェンはそれに「言葉」を持ち込んでしまったため、以降の作曲家は、ベートーヴェンの交響曲を越えるためには、より標題音楽的に物語を盛り込むか、もしくはオペラと合体したような作品を目指すかしなければならない―と考えるようになります。前者はフランスのベルリオーズの「幻想交響曲」、後者はワーグナーの「楽劇」と呼ばれる一連のオペラ作品などが代表です。純粋な交響曲で、ベートーヴェンの第九を越えられない、と畏怖する作曲家たちの気持ちから、クラシックの歴史は変化していったのです。