身内に引揚者がいた
毎日新聞編集委員・井上卓弥さんは、『満洲難民 三八度線に阻まれた命』(幻冬舎、5月刊)を出版した。ソ連軍の侵攻から逃れるために、満洲国首都・新京から朝鮮北部の郭山という小さな町に疎開していた1094人の日本人の物語だ。足りない食糧。厳しい冬。人々は飢えと寒さ、伝染病に苦しみ、子どもたちは次々と命を落とす。「このままでは死を待つだけ。なんとしても日本へ」――ついに決死の脱出行が始まった・・・。
著者は1965年生まれ。もちろん戦争体験者ではないが、この「郭山疎開者」の中に祖母と伯母がいた。記者として国際報道に携わり、旧ユーゴスラビア・コソボ紛争ではアルバニア系難民を取材したとき、国境を越えて隣国アルバニアに逃れてくる難民の姿が、自分自身のルーツと重なった。改めて当事者として、「満州難民」に取り組み、「戦後史の闇」に光を当てた。
同じく朝鮮半島を舞台にしたものでは、『朝鮮半島で迎えた敗戦――在留邦人がたどった苦難の軌跡』(大月書店、7月刊)がある。東京新聞記者の城内康伸さんと藤川大樹さんによる共著だ。二人とも戦後生まれだが、城内さんの母は朝鮮半島からの引揚者。加えて城内さんは記者になってからソウル、北京の特派員を経験したこともあり、関心を持ち続けていたテーマだった。
敗戦によって、植民地・朝鮮半島は一瞬のうちに「外国」になった。そのとき残された日本人はどんな運命をたどったのか。史料と証言を駆使して綴る。同胞の待遇改善のため献身的な努力をした日本人のことなども紹介されている。新聞連載を大幅に加筆して単行本にした。