義理の父と息子の共同作品
この曲は、もともとグノーの即興演奏でした。137年も前に書かれたバッハのプレリュードを弾きつつ、その上に素敵なメロディーを、おそらく気軽な調子でつけていったのです。それを聞いていた、ピアニストにして作曲家、教育家でもあったピエール=ジョセフ=ギヨーム・ツィメルマンという人が、アレンジを思い立ち、ヴァイオリン(またはチェロ)とピアノ、そしてハーモニウムという編成の曲にして、1853年、「バッハの平均律による瞑想曲」として楽譜を売り出すことにしました。演奏会で演奏される小品としてふさわしいと思ったのでしょう、その目論見は当たり、大ヒットします。さらに、再びツィメルマンはアレンジを加え、今度は「アヴェ・マリア」のラテン語歌詞をつけた歌の曲とし、タイトルも「グノーのアヴェ・マリア」としたのです。現在ではこのタイトル、「グノーのアヴェ・マリア」として知られ、クリスマスシーズンや、結婚式の聖歌、コンサートのアンコール・ピースなどとして良く演奏されます。さらには、様々な楽器にアレンジされたり、クラシック以外の音楽にもなったりと、二人の予想をはるかに超える広がりを持つことになりました。
ちなみに、このツィメルマンという音楽家は、門下からビゼーやフランクといったフランスを代表する作曲家を輩出しただけでなく、娘のアンヌが後にグノーの結婚相手となっていますから、グノーの義理の父、でもありました。この特殊な成功作、「アヴェ・マリア」は、義理の父と息子の共同作品...いや、バッハと、グノーと、ツィメルマン3者の共同作品といえるかもしれませんね。
【筆者よりお知らせ】
このグノーの「アヴェ・マリア」をソプラノの上田純子さんと私・本田聖嗣で演奏したり、他の人気ミュージシャンも出演するインターネット・クラシック・ラジオOTTAVA(オッターヴァ)の楽しいクリスマスコンサートが、12月19日に東京都大田区のアプリコ大ホールでございます。くわしくは告知ウェブサイト「Buon Natale ! OTTAVAクリスマス・コンサート2015」をご覧ください。